人生100年時代を支える注目医療

【ペット由来感染症】適度な距離感で接することが必要

兼島孝院長
兼島孝院長(提供写真)
みずほ台動物病院(埼玉・富士見市) 兼島孝院長

 国内の15歳未満の子供の人口は1571万人(2017年)。一方、ペットとして飼われている犬猫の飼育頭数は1844万頭(同)。少子高齢化や核家族化が進み、いまやペットは家族の一員として大事な存在となっている。しかも、ほとんどのペットがいまは室内で飼われていて、人と動物との関係はより濃密になっている。

 そこで知っておかなくてはいけないのが、ペットから人にうつる病気の知識だ。「人獣共通感染症(ズーノーシス)」に詳しい獣医師で、みずほ台動物病院(埼玉・富士見市)兼島孝院長が言う。

「ペットを飼っている人は、動物を『恋人』のように思っている人が非常に多い。しかし、ペットとは『友達』と同じような距離感で接することが大切です。そして、過度な心配は無用ですが、何か体調が悪くなって医療機関を受診するときは、必ずペットを飼っていることを医師に伝えることが重要です」

 ペットとの距離感は、具体的にはこうだ。〈寝室を一緒にしない〉〈口移しや同じはしで食べ物を与えない〉〈キスをしたり、顔をなめられたりしない〉〈ペットに触ったり、一緒に遊んだあとは必ず手を洗う〉〈かまれたり、ひっかかれたりしないようにしつけをする(爪を短く切る)〉などだ。

■就寝中になめられて副鼻腔炎に感染した例も

 ペットの飼育を医師に伝えることが重要なのは、動物には無害の病原体が人の病気の原因になっている場合があるからだ。では、ペットからうつる代表的な感染症には、どんなものがあるのか。

「犬猫で多いのはかまれたり、ひっかかれて感染する『パスツレラ症』です。病原体は口の中にいる常在菌で、猫はほぼ100%、犬は約75%がもちます。高齢者や糖尿病患者など免疫力の低下した人に発症しやすく、傷口が30分くらいすると、激しい腫れと痛みが出て化膿するのです。また、寝ている間に犬に顔をなめられて、鼻から菌が入って副鼻腔炎を起こした症例もあります」

「ネコひっかき病」も多い。原因菌を媒介するのはノミで、感染した犬猫にかまれたり、ひっかかれて発症する。犬猫は無症状だが、人に感染すると2~3週間後に、傷の近くのリンパ節が大きく腫れる症状が表れる。

 犬猫、ウサギ、ハムスターなど哺乳類との接触で皮膚に感染するのはカビが原因の「皮膚糸状菌症」。人では肌に円形の発疹ができ、頭部では毛が抜けたりする。動物も円形に毛が抜ける症状が表れるという。

「セキセイインコなどの小鳥ではフンに含まれる病原菌を吸い込んで、かぜ症状を発症する『オウム病』、ミドリガメでは食中毒症状を起こす『サルモネラ症』などがあります。飼育ケージを掃除するときは、台所での洗浄はやめましょう」

 また、怖い感染症では犬猫から感染する「カプノサイトファーガ感染症」は敗血症を起こした場合の致死率は3割を超える。昨年、国内ではマダニが媒介する「重症熱性血小板減少症候群」に感染した野良猫にかまれた50代女性が死亡した事例もある。

 ただし、これらの感染症がペットからうつるケースは非常にまれと思っていい。

「ほとんどのペット由来感染症は、決して怖い病気ではなく、適切に治療すればすべて治ります。唯一、怖いのは狂犬病ですが、ワクチン接種があるので安心です」

 ペットは人生の伴侶。上手に付き合おう。

▽北里大学卒業、感染症の研究で博士号を取得。日本感染症学会から臨床獣医師として、初の感染制御医(ICD)取得。共通感染症の業績により、日本比較臨床医学会賞(2007年)を受賞。医師への生涯教育、東京大学非常勤講師、市民向け講演、新聞雑誌などでも幅広く活躍。

関連記事