後悔しない認知症

薬でも改善しない…がんやうつでも認知症と似た症状が出る

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「親がヘン」↓「ボケた」↓「認知症」↓「治らない」

 高齢の親の変化を目の当たりにすると、その子どもの多くはこう考えてしまいがちだ。だが、「親のヘン」に何の疑問も持たずに認知症と決めつけてしまってはいけない。最近、テレビなどで認知症が盛んに取り上げられ、私自身首をかしげたくなるようなことを話す医者がいることも影響しているのかもしれない。

「物忘れがひどくなった」「ものごとの理解力が衰えた」「言動が変わった」といった症状の原因のすべてが認知症によるものとはかぎらないと知っておくべきだ。

「医者に診てもらったのによくならない」

 親が認知症と診断され、投薬を受けたにもかかわらず改善の兆しがないことに落胆する子どもの話を聞く。たしかに認知症そのものは治らない病気だが、妄想や大声などの症状は改善することも多い。だが、ケースによっては誤診の可能性も否定できない。なぜなら「認知症らしく思えても原因は違う」ことも少なくないからだ。

 認知症の症状は老化に伴う脳の変性が主たる原因なのだが、よく似た症状がそれ以外の原因によって引き起こされる。

 まず挙げられるのは、がんをはじめとしたさまざまな内臓疾患。がんでも異常行動は起こることがあるし、さまざまな疾患による薬の服用が異常行動を招くこともある。たとえば糖尿病の薬で血糖値を下げるとボケの症状をきたしたり失禁したりすることがある。「眠れない」からと安定剤を服用すると、記憶障害が生じたり昼間でも夢と現実の区別がつかなくなったりすることも珍しくない。高齢者にかぎらず体に不調を抱えていれば、誰でも多かれ少なかれ言動や生活態度に変化が生じる。それまで楽しんでいた趣味に興味を示さなくなったり、コミュニケーションがうまくいかなくなったり、ものごとに対して消極的になったりするのは当然である。

 とくに高齢者の場合、がんをはじめとした内科的病変に対する自覚症状への感度が鈍くなっているからまわりに不調を訴えたり、受診したりといった行動ができない。「自分のヘン」に気づかないのである。

■薬で改善しなければ誤診の可能性

 また「老人性うつ」を認知症と誤診されてしまうこともある。老人性うつの症状は認知症のそれと非常によく似ている。私は現在まで30年近く老年精神医学に携わり数多くの高齢者を診てきたが、うつ病が原因で言動や生活スタイルに大きな「ヘン」が生じたケースも少なくない。

「別の病院で認知症と診断されて薬を飲んでいるが症状が進んでいる」と子どもに連れてこられた患者さんを実際に診察し検査をしてみると、認知症ではなくうつ病と判明したりする。そこで認知症ではなくうつ病の治療を施したところ、症状が飛躍的に改善したケースも多い。

 高齢な親をもつ子どもは、とにかく「親がヘン」↓「ボケた」↓「認知症」という考え方を一度は疑ってみることだ。ろくに患者の顔も見ずに、マニュアル通りの検査だけで「はい、認知症ですね」と診断し処方箋を出しておしまいという医者には要注意だ。「認知症らしく思えても原因は違う」ということを忘れてはならない。

和田秀樹

和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

関連記事