がんと向き合い生きていく

死の恐怖を乗り越える術 頭で考えるのではなく“体に聞く”

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 ……この旅行に満足し……もう少しで解決できる所まで問題を追い詰めたと思っていたのに、死を考えることが僕の中では必要のないことになった感じがして考えようとしませんでした」

「それから数日が経って、駅前の商店街に買い物に出かけました。横断歩道で信号待ちをしていると、視野の左上から光が射しました。太陽だったと思うのですが、見上げて光が目に入った瞬間に、『子どもだ、人生の可能性は子どものことだったんだ』と気づきました。僕の命から次の命に流れていく強いつながりを感じました。そこにはとても深い感動がありました」

「そして僕の魂が震えた時、初めて『生きたい』と思いました。そしてこれも脳内現象だと思うのですが、ずっともやもやしていた視界がすっと晴れて、遠い先まで続く1本の道が見えました。そこには人も動物も何もありませんでした。ごつごつとした岩から切り出したような道は大きくうねって続いていました。それを見た瞬間、開放感につつまれました。『そうか、この道を進めばいいのか』と一歩踏み出した時、『これで移植が受けられる』と安心しました。8カ月以上悩んでようやく心が決まりました」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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