意外に知らないホルモンの実力

【血圧上昇ホルモン】脳に作用して塩分を取りたい気分に

塩分を取りたい気分に…
塩分を取りたい気分に…(C)日刊ゲンダイ

 あらゆる生物のふるさとは海。陸上で生活するようになった生物が、生き残るためにつくられるようになったホルモンが「アンジオテンシンⅡ」と「アルドステロン(鉱質コルチコイド)」だ。両方とも血圧を上昇させる作用をもつ。

 東京都立多摩総合医療センター内分泌代謝内科の辻野元祥部長が言う。

「海水は塩分が豊富で浮力があります。しかし、陸上では食べ物がないと塩分不足になりやすく、重力がかかるので、塩分が足りないと血圧が維持できません。血液中の塩分濃度が低下すると、腎臓が感知してレニンという酵素を出します。この酵素の働きによって、肝臓で分泌されているホルモンが血管収縮作用のあるアンジオテンシンⅡに変換され血圧が上がるのです」

 アンジオテンシンⅡは脳にも作用して、塩分を取りたい気分にさせるという。さらに、副腎皮質に働いてアルドステロンの分泌を促す。

 アルドステロンは腎臓からの塩の再吸収を高め、塩分を体にため込んで血圧を上げる作用があり、カリウムをゴミとして体外に排出する働きもしている。

 このように血圧上昇ホルモンは陸上の生物にとって欠かせないが、塩分の取り過ぎは高血圧の大きな原因になる。

 高血圧の治療薬(降圧剤)で最初に使われることの多い「アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)」は、アンジオテンシンⅡが受容体に結合するのを妨げて、血管を拡張させ、血圧を下げる薬だ。

 アンジオテンシンⅡの産生が過不足を起こす病気はないが、アルドステロンが過剰に分泌される病気がある。「原発性アルドステロン症」だ。

「以前はまれな病気と思われていましたが、診断技術の向上で最近では高血圧患者さんの5~10%がこの病気だとみられています。典型的な症状は、高血圧と低カリウム血症ですが、低カリウム血症を伴わない場合もあります。また、正常血圧の原発性アルドステロン症も報告されています」

 低カリウム血症の症状は、腎臓の濃縮障害による多飲、多尿。重症になると、突然、手足の筋肉が麻痺(まひ)して動かなくなる周期性四肢麻痺が起こる。就寝中に起こることが多く、糖分の過剰摂取などで誘発されるという。

 原発性アルドステロン症は、片側の副腎にできた良性腫瘍が原因のことが多い(約7割)が、両側性の分泌増加も2割を占める。原因が片側なら手術、両側性なら薬物療法が行われる。

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