Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

元ヴェルディ藤川孝幸さん急逝 胃がん早期発見のためには

2018年5月の激励試合で(左はラモス瑠偉、右は永井秀樹)
2018年5月の激励試合で(左はラモス瑠偉、右は永井秀樹)/(C)日刊ゲンダイ

 ピッチに立った者として残念でなりません。ヴェルディ川崎の元GK藤川孝幸さんのことです。先月15日に胃がんで亡くなったことが、報じられました。

 享年56。私も暁星高校のはじめまでサッカー部に所属し、GKでした。2歳下で年も近く、藤川さんのプレーはよく見ていたのです。PK戦での勝負強さは印象に残っています。今年4月には、社会人クラブチーム「北海道十勝スカイアース」の社長の立場で胃がんを公表。昨年12月に診断されたとき、主治医に「来年の桜は見られない」と告知されたそうです。

 会見の報道によれば、「ステージ4以上の末期だった」そうですが、医師の告知の仕方はちょっとひどい。私も若造のころ、こんな告知をしたことがありますが、翌朝、6人部屋で絞首自殺されたことがあります。反省しきりです。

 それでも心を折ることなく、ツイッターには「必ず癌を完治させまして、完全復活して参ります!」と投稿するなど前向きに治療に励んでいたことがうかがえます。診断後すぐに抗がん剤治療を受け、一時はがん細胞が半分に減少。今年1月には病室で新戦力についての話ができるまでに回復したといいます。

 無慈悲な医師の言葉を乗り越えて1年。粘り強い姿を直接見たわけではありませんが、その闘病ぶりは現役時代のプレースタイルに通じるところがあります。

 受診のキッカケは、背中の激痛だったとか。その病状から察すると、胃がんが直接、あるいはリンパ節への転移が、胃の裏の神経を圧迫したと考えられます。このような痛みは、すい臓がんでもよく起こること。

 その痛みの緩和には、放射線治療が効果的ですが、どんながんであれ、がんによる痛みは初期には見られません。症状をあてにしていては、がんを見過ごすことになります。特に胃がんや大腸がんは今や早期ならほぼ100%根治できますから、そのチャンスを逃すのはもったいない。

 藤川さんは「奇跡」を信じて、治療に励んでいました。奇跡はかないませんでしたが、医師として私がそのメッセージをくみ取るなら、藤川さんの死を無駄にしないことだと思います。それが早期発見のための内視鏡検査とピロリ菌のチェックでしょう。

 胃がんの原因は、98%がピロリ菌ですから、検査で陽性と診断されたらとにかく除菌です。しかし、感染したという履歴は消えません。だから、内視鏡検査を1年に1回受けるのです。

「私はバリウム検査を受けているから大丈夫」という人もいるでしょうが、バリウム検査は被曝の恐れがあるほか、見逃しのリスクが高い。

 そもそも、確定診断には内視鏡検査と細胞を採取して調べる生検が不可欠。バリウムか内視鏡を選べる状況の人は、内視鏡検査がよいかと思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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