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高齢者のヒートショック対策「入浴は14~16時」を医師推奨

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高橋龍太郎院長多摩平の森の病院(東京・日野市)

「ヒートショック」は医学用語ではないが、温度の急激な変化で血圧が上下に大きく変動するなどによって起こる健康被害のこと。

 失神したり、心筋梗塞や不整脈、脳梗塞を起こす原因になり、特に冬場の入浴時に発生しやすい。

 東京都健康長寿医療センター研究所の研究によれば、ヒートショックに関連した入浴中急死者数は年間1万7000人(2011年)と推計され、その約9割が65歳以上の高齢者。

 また、外気温が低くなる12月から2月にかけての時期に発生する割合が、全体の約5割を占めている。

 冬場の入浴時の急激な血圧変動について、前東京都健康長寿医療センター研究所副所長で国内のヒートショックに詳しい高橋龍太郎院長(顔写真)が言う。

「冬の脱衣所や浴室は、室温が10度以下になることも珍しくありません。そこで衣類を脱ぐと寒冷刺激で血圧が急上昇し、湯に漬かった直後にピークになる。このときに心筋梗塞や脳卒中が起こりやすくなります。さらに、湯に漬かっていると血管が拡張し、今度は逆に血圧が急激に低下します。これが失神の原因になる。浴槽内で溺れるケースは入浴中急死の典型例です」

高橋龍太郎院長
高橋龍太郎院長(提供写真)

■暖かい浴室でも血圧は30以上も上下

 高橋院長らは以前、男女103人の高齢者(平均74歳)を対象に入浴前後の血圧変化の実験を行っている。

 41度の湯温で5分間入浴した場合の最大血圧(収縮期血圧)の変動を2分間隔で測定したのだ。

 その平均値でみた結果は、服を脱ぐ前の血圧は約136(㎜Hg)、服を脱ぐと約156(同)、湯に漬かった直後は約166(同)に上昇、それが5分後に湯から出た直後は約135(同)に急激に低下している。

「実験は、安全を保つために脱衣所が暖められた公衆浴場を使いました。一般家庭では、脱衣所が寒かったり、湯温がもっと高かったり、入浴時間も長いので条件はもっと悪いはずです。血圧が30以上低下すれば、起立性低血圧や食後性低血圧と同じ状態で、失神や意識障害を起こしてもおかしくありません」

 若い世代では、これほど大きな血圧変動は起こらない。高齢者は動脈硬化が進んでいる場合が多く、血管のしなやかさが失われているために急激な血圧変動を起こすのだ。

 特に、治療で血圧が正常にコントロールされていない高血圧の人は要注意という。

 では、どんな対策をとればいいのか。最も有効なのは断熱改修だが、コストの面でどの家庭でもできるわけではない。すぐできるのは、高い位置に設置したシャワーから浴槽へお湯をはることで、湯気で浴室全体を暖めることができる。脱衣所と浴室の扉を開いておき、5分間やるだけでも十分効果がある。また、浴槽のお湯の温度は41度以下にするのがいいという。

「外気温の冷え込みが強くない、夕食前や日没前の入浴も対策のひとつです。ホルモン分泌の関係で、人の生理機能は14~16時ごろがピークになります。夜に入浴するよりも体の温度差への適応がしやすいのです」

 また、食後1時間以内や飲酒時は血圧が下がりやすくなるので、入浴を控えた方がいい。「呼吸」「血液循環」「消化」「排泄」などをつかさどる自律機能の老化による健康被害は、環境を整えることが最大の防御策になるという。

▽1976年京都大学医学部卒。東京都老人総合研究所、東京都健康長寿医療センター研究所副所長を経て、2017年から現職。老年学・老年医学が専門。〈所属学会〉日本老年医学会、日本老年社会科学会、日本内科学会など。

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