がん発症の妻にしてあげた10のこと

<6>尾崎豊を歌わない「大ファンの妻が怒り出す」

小宮孝泰さん
小宮孝泰さん(C)日刊ゲンダイ

 佳江さんと結婚する前、小宮さんは知人との飲み会の流れで彼女とカラオケスナックに行ったことがあった。

 熱唱したのが、尾崎豊の「I LOVE YOU」だ。

「僕が『I LOVE YOU~』と調子に乗って歌っていたら、彼女が『私の尾崎を汚さないで』とぷりぷりと怒りだしたのです。彼女は尾崎豊(1992年死去)の大ファンで、結婚した時も実家からびっくりしちゃうくらいCDを持ってきた。尾崎は僕がニッポン放送でラジオのパーソナリティーの一員を務めていた頃にたびたびゲストとして登場してくれ、まんざら知らない人でもない。ただ妻にとって尾崎豊は、不慮の死を遂げた後もずっとあの尾崎豊のままでした。ですから結婚後に『十七歳の地図』や『卒業』を私は二度と歌いませんでした」

 そんな佳江さんは「桃太郎侍」をテレビで見るのも好きだったという。

「四国に彼女の父方の祖父母が住んでいて、小学生の頃までは夏休みなどの休暇には里帰りすることもあったようで、そこでおばあちゃんと一緒に高橋英樹さんの『桃太郎侍』を見て好きになったらしいのです」

 佳江さんが学生の頃に好きだったのが、役者では真田広之だ。

「さすがに私と結婚してからは熱烈な真田ファンの姿は鳴りを潜めていましたが、真田さんが海外進出を始めた頃に再びお熱が上がってきました。真田さんがイギリスのロイヤル・シェークスピア・カンパニーの一員として日本に凱旋公演した『リア王』も一緒に見に行きました。真田さんが『ハムレット』(蜷川幸雄演出)でハムレットを演じられていた時は、妻に真田さんのサインを頼まれ、楽屋にお邪魔させていただいたこともあります。同業者にサインを頼むのは気が引けましたが、舞台後にシャワーを浴びてバスローブ姿のままの真田さんは丁寧に応じてくれたものです」

 今ではハリウッド俳優のイメージが定着した真田だが、イギリスで本格的に演技の勉強をしている。

「真田さんが話すブリティッシュ英語は、ネーティブ以外の俳優としてはベストというくらいうまい。僕も何年も英語を勉強していますが、本当に海外で活躍したいなら、真田さんみたいに向こうへ行く覚悟がないとダメでしょうね。楽屋を訪ねた時、最初は後ろに隠れて恥ずかしそうにしていた妻も、真田さんと握手をしたり、一緒に写真を撮ってもらったりしてとても楽しそうでした」

 さすがにその日ばかりは、奥さんも小宮さんを見直したそうだ。

(つづく)

小宮孝泰

小宮孝泰

1956年、神奈川県小田原市生まれ。明治大学卒。80年、渡辺正行、ラサール石井と「コント赤信号」でTVデビュー。91年に佳江さんと結婚。2001年、31歳の佳江さんに乳がん発症。12年に永眠。今年9月に、出会いから別れまでの出来事をつづった「猫女房」(秀和システム)を上梓。

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