独白 愉快な“病人”たち

金子エミさん「手のモデル」としての“余命”は覚悟できた

金子エミさん
金子エミさん(C)日刊ゲンダイ

「あと5年ぐらいで、指曲がっちゃうよ」

 そう医師にサラッと言われたときは、思わず泣いてしまいました。手のモデルとしては余命宣告を受けたようなもの。それが今年の10月でした。 去年の夏あたりからスマホを持つたびに左手の小指の第1関節に痛みを感じていました。でも、「スマホの持ち過ぎかな」と思い、あまり気にしていませんでした。その頃、長男は世界ダウン症水泳選手権大会を控えていたので、そっちに夢中だったんです。

 長男はダウン症です。ダウン症の世界水泳大会でのメダル獲得を目指していて、週5日は練習していたのですが、ダウン症の水泳は週5日はやってくれません。なので、私がコーチを探してクルマであちこち連れていきます。習志野、静岡、箱根……習えるコーチを求めてどこへでも出向くんです。

 一時期はガソリン代だけで月7万円もかかっていました。最近は燃費のいいクルマに買い替えましたけど(笑い)。

 そうやって長男の練習に夢中になっているうちに、痛みは小指から徐々にほかの指にも広がっていき、1年経ったこの夏には、すべての指が痛くなっていました。それも第1関節だけ。ちょっと物が当たっただけで痛いし、ペットボトルの蓋が開けられない、包丁は使えない。そして、クルマのハンドルを握るのも痛くなって、いよいよ「これはまずいな」と思ったのです。

 そこで、ふと思い出したのが、指の第1関節が曲がっている、近所で馴染みのおばちゃんのことでした。失礼ながら指について伺ったら、「曲がるまでは痛かったけど、曲がっちゃったら痛くないのよ」とあっけらかんと言われ、そのとき初めて「ヘバーデン結節」という病名を聞きました。

 その後、近所の整形外科でレントゲン検査しましたが「異常なし」。でも痛みはあるし、曲がっちゃうのは嫌だと思い、知り合いの女医先生に相談したんです。

 すると、四谷の病院にいる手の外科の先生を教えてくれました。

 その先生はとても有名らしく、10月上旬に病院に電話したら「11月1日にもう一度電話してください」と言われ、それがなんと翌年2月の予約になるというのです。がっかりして先の女医先生に報告すると、「その先生は水曜日の数時間だけ八王子の病院で外来を受けている」という情報をくれました。

 翌日が水曜だったので、すぐにクルマを飛ばして八王子の病院を訪ねたら、あっさり受診できました。

 問診で指の症状を伝え、「26年間、手のモデルをやってきて、凄く手を大事にしてきた」という話をしました。でも、話し終わらないうちに、「ああ、これです」と言って、目の前に「ヘバーデン結節」という大きな文字とイラストが描かれた紙を差し出されました。そして、「あと5年で曲がる」という宣告をされたのです。

 その先生の話によると、ヘバーデン結節は指の第1関節に痛みや変形を生じる病気で、小指から症状が表れるのが特徴とのこと。原因は不明ですが、女性ホルモンの減少と関係があるといわれているようです。治療法も確立されていないのですが、豆腐200グラム、豆乳200ミリリットル、納豆1パックを毎日食べることを勧められました。

 何でも、大豆に含まれる成分と腸内細菌が出合って作られる「エクオール」というものを1日10ミリグラム、3カ月間摂取すると、60%の人が改善するという研究があるそうなんです。

 それ以来、毎日豆腐と豆乳と納豆を食べ、関連するサプリメントも併用しながら、いま1カ月半ほど経ったところなのですが、何と、痛いと感じることが減ってきたんです。以前は、何をするにもいちいち痛くて、本当に生活しづらかった。でも、ガマンできる程度の痛みなので放置できちゃうんですよね。

 きっと、普通の主婦だったら指が曲がるまで様子を見てしまうんだろうなと思うんです。でも、曲がってしまったら手術するしか治す方法はないそうです。

■長男と一緒に障害者スポーツを広げていくサポートをしたい

「痛みがなくなれば指は曲がらないのか?」という疑問は、今度先生に聞いてみようと思っていますが、手のモデルとしての寿命はある程度、覚悟できました。もうすっかり「次は何をしようか」という思いにシフトしています。すでにやっている料理動画サイトのMCや、美容関係のリポートなど、お話しする仕事をメインにできたらと考えたりしています。

 長男を見ていると、こんなことで落ち込んでいられないと思いますよ。彼にはメダルを取ることもそうですが、日本の障害者スポーツをもっと広げていく役割があると思っています。

 私は長男と一緒にそのサポートをしたい。のんびりしてはいられません。

=聞き手・松永詠美子

▽かねこ・えみ 1970年、東京都生まれ。91年から日本を代表するパーツモデルとして雑誌やテレビのCMで活躍し、近年は美容研究家としても活動している。一方で、2018年世界ダウン症水泳選手権大会背泳ぎ100メートル10位、200メートル個人メドレー7位入賞と過去最高の成績を収めた長男のサポートにも尽力。現在、INAS・FID(国際知的障害者スポーツ連盟)が主催するINAS世界水泳選手権のDS(ダウン症クラス)への日本の参加を求める署名活動を「change.org」で呼びかけている。

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