意外に知らないホルモンの実力

【血管拡張ホルモン】ポンプ役の心臓は内分泌臓器でもある

写真はイメージ
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 筋肉の塊の心臓は、単に血液を送り出すポンプの役割を果たしているだけでなく、立派な内分泌臓器でもある。それが分かったのが1984年。日本人研究者によって「ナトリウム利尿ペプチド」と呼ばれるホルモンが分泌されていることが発見された。東京都立多摩総合医療センター内分泌代謝内科の辻野元祥部長が言う。

「最初に、心房(心臓の上部の部屋)から分泌されている『心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)』が発見され、その後、心室(心臓の下部の部屋)からは『脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)』が分泌されていることが分かりました。激しい運動などをすると、心臓の血流量が増えます。そのようなときに、どちらのホルモンも血管を拡張させて血圧を下げ、心臓に負担がかかりすぎないように働くのです」

 心臓が弱ったときにもナトリウム利尿ペプチドの分泌が高まる。心臓が弱ると腎臓へ送る血液量が減り、尿も減る。すると、体に余分な水分や塩分がたまって血圧が上がる。そこでナトリウム利尿ペプチドが腎臓に働いて、水分(尿)や塩分の排泄を促すのだ。また、副腎にも作用して、体に塩分をため込むホルモン(アルドステロン)の分泌を抑制するという。

「いずれも心臓に負担がかからないように働くのです。国内ではANPは急性心不全治療薬として頻用されていますし、BNPは心不全で血中濃度が大きく上昇するので、心不全の重症度判定に欠かせない診断法となっています」

 もうひとつ、血管拡張作用のある代表的なホルモンが、血管の内皮細胞から分泌される「一酸化窒素(NO)」だ。86年に米国の化学者ファーチゴットが血管拡張因子の本体であることを発見し、98年にノーベル医学生理学賞を受賞している。最も単純なガスが、ホルモンとして重要な働きをしているのだ。

「NOの血管拡張作用が分かりやすいのは、ペニスの勃起です。勃起もNOによって血管の平滑筋の細胞内にサイクリック(c)GMPという物質が増え、それが血管を広げてペニスに血液が充満します。バイアグラはcGMPを分解する酵素の働きを阻害する薬です」

 狭心症や心筋梗塞後に使われる硝酸薬はNOの生成を促す薬で、同じくcGMPが増加する。そのためバイアグラとの併用は、急激な血圧低下を起こす危険性があるので禁忌となっている。また、閉経前の女性に脳卒中や心筋梗塞が起こりにくいのは、女性ホルモンがNOの分泌を高めることが関係しているという。

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