【Q】赤ワインは体に良いという話を聞き、極力取るよう心がけています。しかし、最近その話は聞きません。なぜですか?
【A】1990年代に「フレンチパラドックス」という言葉が流行したのを覚えておられるでしょうか。パラドックスとは「逆説」という意味です。「フランス人はたばこを吸い、グルメで肉やバター、生クリームなどの動物性脂肪をたくさん取るのに心臓病による死亡率が低い」という説です。フランス人はイギリス人やドイツ人よりも寿命が長く、とくに狭心症や心筋梗塞といった心臓病が少ないことから、こう呼ばれたのです。
キッカケは、フランスのルノー博士らが行った乳脂肪とワインの消費量、ならびに虚血性心疾患の発生数に関する研究にあります。本来、そんな食生活をしていれば動脈硬化が進み心臓病が多くなるはずです。にもかかわらず常識とは真逆の調査結果となった理由は赤ワインに秘密があるといわれたのです。いわく「フランス人は赤ワインをよく飲む。赤ワインには緑茶の6倍ものポリフェノールが含まれていて悪玉(LDL)コレステロールの酸化抑制など動脈硬化を起こしにくくしている」というわけです。
この研究結果がアメリカのテレビ局に取り上げられると、瞬く間に世界中で赤ワインブームが巻き起こりました。日本でも当時は中高年の男女が好んで赤ワインを飲んでいたのを記憶している人も多いと思います。
しかし、私には当時よりも赤ワインブームは下火になっているように感じられます。それは、以下の理由が考えられます。
①ポリフェノールを取るだけが目的なら、わざわざ赤ワインでなくともコーヒーやニンジン、ゴマなど身近なものでも十分取れる。
②日本人は心臓病の発生率が低い。体質的にアルコールの分解能力が低い日本人が酒による危険を冒してまで、心臓病予防のために赤ワインを飲む理由がない。
③アルコールには動脈の中で血液が固まってしまうのを防ぐ抗凝固作用がある。心筋梗塞は冠動脈の血液が固まる病気なので、アルコール自体による心筋梗塞予防かもしれない。
もちろん、1万3000人を対象にしたデンマークの研究のように「ワインをたくさん飲んでいた人ほど死亡率が低く、そのような傾向は他のお酒では認められない」という報告もたくさんあります。しかし、これはお酒の種類の違いというよりもつまみの違いが原因かもしれません。
実際、ビールを買った人、ワインを買った人の300万件以上のレシートから、ほかにどんな食品を買ったかを調べたところ、ビール派はソーセージ、バター、マーガリンなどの飽和脂肪酸やトランス脂肪酸といった心筋梗塞の原因となる脂質が多く、ワイン派はそうでない植物油脂や果物、野菜が多かったそうです。
(国際医療福祉大学病院内科学・一石英一郎教授)
お酒と健康 8つの疑問