佳江さんの誕生日は12月30日。小宮さんはこの誕生日で泣かせてしまったことがある。
「クリスマスには必ずレストランで食事をしていました。ただ、結婚したての頃はお笑い系の仕事も多く、年末年始は忙しかった。本当はダメなのですが、すぐ前にクリスマスを祝ったのだから……という気持ちも僕のどこかにあって、妻の誕生日を忘れがちになったりもした。ですが、本人にとっては、クリスマスと誕生日は違います。彼女はご両親が離婚されているので、義理のお母さまも子育てに忙しく、子供の頃の彼女はあまりかまってもらえなかったのかもしれません。その記憶があったのか、普段は物欲しそうなところなどない妻が、その日ばかりはなぜかプレゼントを欲しがったものです」
小宮さんは、洋服や装飾品をあれこれ思案してプレゼントしていたが、その時は当日になって誕生日を思い出し、慌てて花束を買ったのが不運の始まりだった。
「それまでの誕生日にも何度か花束を贈っていましたが、その時は慌てていたので花屋さんで出来合いの花束の中身を確認しないまま買ってしまった。その中に菊の花が交じっていたのです。いつもは僕のセンスの悪さを笑って済ましていた彼女でしたが、この時ばかりは大泣きされました。『私はまだ生きているのよ』と訴えかけるような目でした。怒っているのではなく、妻である私のことを考えてくれていないという悲しみの涙でした。妻は離婚した両親のため、年の離れた弟の面倒も見てきた。人のために何かをしてあげるのが身についている女性で、そのために人が何を欲しているかをよく観察していたのです。でも、私にはそれができなかった。世の中の男性の多くも耳が痛いと思います」
小宮さんが大好きな落語の稽古を始めても、一番身近の彼女が最も厳しい批評家を務めてくれたそうだ。
「この失敗があってからは誕生日が近づくと、何をプレゼントするか悩みに悩みました。そんな時に役者仲間の築出静夫くんの奥さまに相談したら、洋物雑貨『アフタヌーンティー』のティーカップセットを薦めてくれたのです。それまでの僕は高価なものやブランド品を贈れば女性は喜ぶものと勘違いしていましたが、ティーカップを贈ると妻はとても喜んでくれた。妻は昼下がりの午後に紅茶を飲むのが好きでした。まったりとした時間を過ごすのが彼女の幸せそのものであり、僕がそんな彼女のためにティーカップを買っていったことを喜んだのでしょう」
◇ ◇ ◇
普段使う生活用品を買っていったのは、まさしく“見てくれている”ことの表れ。これこそが彼女の望んだ心配りだったのだろう。(※編集部注)
=つづく
がん発症の妻にしてあげた10のこと