生活習慣病などと言われるように、生活習慣と病気の発症には強い関連性があります。しかし、成人してから発症する病気のリスクが、必ずしも成人以降の生活習慣によってもたらされているわけではありません。幼少時代の経験や生活環境、例えば虐待や両親の離婚、社会経済的状況なども大きく影響してくることが、近年の疫学研究で明らかとなっています。
海外の研究報告では幼少期の生活環境と認知症の関連性が示唆されているようですが、日本人においては明確なことは分かっていませんでした。
そんな中、日本疫学会誌電子版に、幼少期の社会経済的環境と認知症のリスクの関連を検討した観察研究の論文が、2018年10月20日付で掲載されました。
この研究は東京都足立区に在住している65歳以上の高齢者13万2005人を対象としたものです。自己評価による認知症チェックシートを用いて主観的な認知症症状を調査し、臨床認知症尺度と比較しながら検討を行っています。なお、結果に影響を与えうる、年齢、性別、教育環境、喫煙状況、運動習慣、糖尿病や高血圧などの因子で、統計的に補正を行い解析をしています。
最終的に解析に含まれたのは7万5358人(平均73.8歳。男性45%)のアンケートのデータでした。その結果、主観的な認知症の症状は、幼少期の社会経済的状況が良い集団と比較して、悪い集団で約1.4倍、統計学的にも意味のある水準で高いことが示されました。また、この関連性は65~74歳よりも、75歳以上で強いことが示されています。
年齢によりリスクに違いがある背景として、論文著者らは、第2次世界大戦と戦後の混乱、あるいは高度経済成長が関与しているのではないかと考察しています。