心臓疾患を抱える患者さんに対してよく使われるクスリには、前回取り上げた抗凝固剤のほかに「コレステロール降下薬」があります。とりわけ、心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患を一度発症した患者さんにとっては、再発予防のために欠かせないクスリです。
コレステロール降下剤は、1970年代に日本の遠藤章医師が発見した「スタチン」の系統にあたる薬剤が多く使われていますが、近年、新しいタイプが登場し、副作用が少なく効果の高い薬剤が増えつつあります。やはり、抗凝固剤と同じように古いクスリと新しいクスリには大きな価格差があるのが現状です。
1989年に発売されたスタチン系の中でいちばん古い「メバロチン」は、一般的な効果を出すための通常用量は1日1錠で70円、1カ月で2100円になります。3割負担の場合、患者さんの自己負担額は約600円です。
■副作用を見極められる医師にかかることが大切
同じスタチン系で2005年に発売された「クレストール」は、メバロチンよりも強力に悪玉と呼ばれるLDLコレステロールを低下させます。
こちらは1日1錠で110円なので、3割負担なら月約1000円。そこまで大きな差はありません。スタチン系の薬剤は上記の2剤を含めて6種類が使われていますが、いずれも同じような価格帯です。
ところが、17年に登場した「プラルエント」になると大きく変わってきます。このクスリはスタチン系のような経口薬ではなく、ペン型の在宅自己注射薬です。作用機序がスタチン系とは異なり、LDL受容体の分解を促進するタンパク質(PCSK9)が、LDL受容体に結合することを阻害してLDLを降下させます。
効果が強く確実なうえ、2週間に1回だけ1㏄、75㎎を皮下注射すれば済むため、患者さんにとっては通院の負担が軽減されます。しかし、月2回、計150㎎の注射で価格は4万4000円。3割負担でおよそ1万3000円もかかるのです。古いタイプのメバロチンは月約600円ですから、20倍以上の価格差になります。
現在、プラルエントの適応は「家族性高コレステロール血症と高コレステロール血症」で「心血管イベントの発現リスクが高い」うえ、スタチン系では効果が不十分な場合に限られていますが、今後は適応が拡大されたり、同じようなタイプの確実性のあるコレステロール降下薬がどんどん出てくるでしょう。
ただ、コレステロール降下薬は基本的にはずっと飲み続けなければいけないので、高価な新しいクスリは患者さんの負担が大きくなってしまいます。ですから、自分に合っているクスリをしっかり選択することが大切です。
コレステロール降下薬を服用する際、いちばん注意しなければならないのは副作用です。筋肉痛や関節痛、まれに筋萎縮や横紋筋融解症といった重篤な副作用を起こす可能性があるからです。
虚血性心疾患の患者さんの再発を予防する場合、一般的にはLDLを「90㎎/デシリットル以下」にコントロールすれば良いといわれていて、さらに「70以下」に管理するとより明らかな再発予防効果があるというデータもあります。コレステロール降下剤を使ってそれくらい厳格に管理すると、副作用を訴える患者さんが増える傾向にあるので、副作用の表れ方をしっかり見極められる医師を選ぶ必要があるのです。
また、家系に動脈硬化性の疾患で亡くなっている人がいる場合、LDLの正常範囲の上限値である139よりも下げなければなりません。
担当医にそうした知識があるのか。家族歴をはじめ、尿酸値や血糖値などをしっかり確認し、総合的に判断したうえでクスリの効き方の強弱を見てくれているのか。医師に言われるがまま服用するのではなく、患者側もきちんと医師を見極めてクスリを選択していくことが、寿命を延ばすことにつながります。
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