「男としての戦力を半分失いました」
ドキッとすることをブログにつづっているのは、バンド「HighsidE」のドラマー・Nosukeさん(29)です。「戦力」とは睾丸で、精巣の腫瘍で左の睾丸を摘出したとのこと。29歳の男盛りで、歌手の妻misonoさん(34)もいますから、相当ショックだったでしょうが、ユーモアを交えて語るところに好感が持てます。
「見慣れないフォルムが圧倒的に滑稽です。長年付き合ってきた相棒の変わり果てた姿に戸惑いを隠せません」
スポーツ紙なども取り上げていて、ご存じの方もいるかもしれません。皆さんがまず気になるのは「半分の戦力喪失」でしょうが、結論からいうと、半分摘出しても、もうひとつが残っていれば、子供をつくることは可能です。爆笑問題の田中裕二さんは、良性の精巣腫瘍で片方の睾丸を摘出していますが、昨年、子宝に恵まれています。
今回のポイントは、もうひとつあります。網走のライブから戻っての精密検査の結果をこう言われたそうです。
「精巣がんによる胚細胞腫瘍が胃の下にあります。直径およそ15センチ。とても大きいです」
胚細胞腫瘍は、精巣・卵巣などの生殖器と体の中心線に沿った部分、たとえば胸の中(縦隔)、お腹の中(後腹膜、仙骨部)、脳(松果体、神経下垂体部)などにできやすい悪性腫瘍です。いろいろな内臓に分化することができる能力を持つ原始胚細胞という細胞が悪性腫瘍になったものと考えられます。
10代から30代、特に20代に多いのが特徴。多いといっても、「このがんとして多い」のであり、がん全体では男性だと10万人に3人程度で、まれながんです。
小児に発生するケースでは、体の中心部が原発になることが半数なのですが、20代の青年期は生殖器が原発になることがほとんど。特に男性は、精巣発生が9割を占めています。
一般にはなじみのないがんで、厄介なイメージを持たれるかもしれませんが、このがんは遠隔転移があっても、抗がん剤がとても効きやすく、根治が期待できます。
彼のケースでは、まず原発部位の精巣を睾丸ごと摘出。それで病理検査で組織を調べてから、追加治療を検討します。一般には抗がん剤で、ブログなどに指摘されている抗がん剤治療は胃の下の胚細胞腫瘍へのものでしょう。
胃の下の胚細胞腫瘍は大きかったので、胸痛や胃の不快感などがあったと思われますが、検査を受けるまで半年ほど放置したそうです。精巣の腫瘍は、ねじれていると痛みがありますが、そうでないと痛みのない腫れが症状になります。
仙骨部にできると、排尿障害やお尻のしこりが見られたり、脳にできると頭痛や嘔吐から食欲低下まで、圧迫する部位によってさまざまな症状が見られます。症状の部位に応じてエコー検査やMRIなどで発見されることは珍しくありません。
まれながんでも、根治も可能ですから、彼のように前向きに治療に取り組むことが大切です。