がんと向き合い生きていく

手紙を読んで死の恐怖を乗り越える術に一歩近づいた気がした

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 よく山で死ねば本望、舞台で死ねば本望などの謂いがありますが、それもそういうことだと思います。明日はこれをしよう、ここまで行こうなどと希望しながら死んでいくのが一番自然な死だと私は思います。

 ……要は、その力を引き出してやることだと思います。そして、その力はその人が生きてきた日常の中にこそあるのだと思うのです。

 私は、先生の著書(がんを生きる)で、奈落に落ち込んだ主婦が、自分の死後ひとり残される夫が困らないようにアレコレ教えてやらなければと考えて、こうしてはいられないとばかり元気を取り戻すというお話がとても好きです。いい例だと思うのです。

 私も深刻な病気を得た当初、今まで悩み相談をしたりされたりしていた人たちが「今のあなたはそれどころではないでしょうから」と、急に口をつぐんでしまったりするのに寂しい思いをしたことがあります。一生懸命人の悩み相談に応じている方が、自分なりにできることをしている日常を実感できて、むしろ救われるのです。

2 / 4 ページ

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事