意外に知らないホルモンの実力

睡眠ホルモン「メラトニン」と「オレキシン」の役割とは

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写真はイメージ(C)PIXTA

 睡眠にもホルモンの働きが大きく関わっている。脳の中心に位置するグリーンピースほどの大きさの松果体から分泌される「メラトニン」だ。脈拍や体温、血圧などを低下させ、体を眠りに向かわせる作用がある。東京都立多摩総合医療センター内分泌代謝内科の辻野元祥部長が言う。

「メラトニンは夜間にのみ分泌され、昼間は分泌されません。その分泌の日内リズムは、朝起きて太陽を浴びることで目から入る光刺激によってリセットされ、起床から14~15時間で再び分泌が始まります。そして、深い眠りのノンレム睡眠をもたらす働きがあるとされています」

 通常、このようにメラトニンの日内リズムによって、朝に目覚め、夜に眠るというヒトの体内時計がコントロールされている。ところが夜にブルーライトが目に入ると、メラトニンの分泌が抑制されてしまう。寝る前にパソコンやスマホの画面を見ていると、不眠症など睡眠の質の低下につながるのはそのためだ。

 他にもメラトニンには抗酸化作用(アンチエイジング効果)や、傷んだ組織の修復に関係する成長ホルモンの分泌を促す作用があるという。

「メラトニンの分泌は小児のときの方が多く、性成熟を抑制する作用もあると考えられています。実際、松果体に腫瘍ができて分泌が低下した小児では、思春期が早発することが知られています。また、高齢になると眠りが浅くなるのは、加齢に伴って分泌量が減少するからです」

 もうひとつの睡眠に関係するホルモンが、1998年に日本人によって発見された「オレキシン」。脳の視床下部から分泌され、「眠り」から「覚醒(起きる)」へと切り替える働きをする。

「オレキ」とは「食欲」を意味するギリシャ語で、発見当初はマウス実験で食欲増進効果が注目されたが、その後の研究で覚醒を促すホルモンであることが分かっている。

「日中、突然睡眠に入ってしまう眠り発作を特徴とする『ナルコレプシー』という病気では、オレキシンがつくられなくなっていることが明らかにされています。治療薬として、オレキシン受容体を刺激する薬剤が開発されている最中です」

 睡眠薬では、すでにこの2つのホルモンをターゲットにした新しいタイプの薬がある。2010年に「メラトニン受容体作動薬」、14年に「オレキシン受容体拮抗薬」が登場し、どちらも従来の睡眠薬より副作用が少なく、自然に近い睡眠が得られるのが特徴という。

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