役に立つオモシロ医学論文

定年後も働いた方が長生きできる? WHO発行学術誌に論文が

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 仕事をする中で、時にストレスを抱え込んでしまうことも多いでしょう。定年後はもう仕事はしたくない、そう思う方も少なくないと思います。他方で、仕事をすることは、社会的なつながりを維持することになりますし、生きがいを感じさせてくれることもあるでしょう。そういう観点からすれば、仕事の継続は健康に良い影響をもたらす可能性もあります。特に高齢者では、社会的なつながりが、健康維持にとって重要な要因である可能性を示唆した研究が複数報告されています。

 そんな中、世界保健機関(WHO)が発行している学術誌の2018年12月号に、定年後の就業状況と、健康への影響を検討した観察研究の論文が掲載されました。この研究では、60歳以上の日本人高齢男性1288人が対象となり、定年後の就業状況と、「死亡」「認知機能」「脳卒中」「糖尿病」の4つの健康状態が検討されました。なお、仕事を継続できる人は、仕事を継続できない人に比べて、そもそも健康である可能性が高いため、この研究では、被験者の社会的状況や健康状態に関するデータを用いて統計的に補正を行い解析をしています。

 最大で15年間追跡調査した結果、定年後に仕事をしていない人と比べて仕事をしていた人では、寿命が1.91年、認知機能低下に至るまでの期間が2.22年、糖尿病の発症までの期間が6.05年、脳卒中発症までの期間が3.35年、いずれも統計学的に意味のある水準で長いことが示されました。

 もちろん、この研究結果のみで、雇用状態と健康状態の因果関係を決定づけることは難しいですけれど、定年後も社会的なつながりを維持し、生きがいを持つということが健康の維持・増進にとって、重要な要素であると言えるかもしれません。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

関連記事