Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

麻美ゆまさんは3期で全摘 卵巣にできる境界悪性腫瘍とは?

麻美ゆまさん
麻美ゆまさん(C)日刊ゲンダイ

「手術から5年たって現在、体はすこぶる元気です。病気を乗り越えられた感があります」

 来年のカレンダーの発売記念イベントで明るく語った姿が報道されたのは、タレントの麻美ゆまさん(31)。どんな病気かというと、境界悪性卵巣腫瘍で、26歳の若さで卵巣と子宮を全摘したことが伝えられています。その後、直腸への浸潤がんも見つかったことで抗がん剤治療により、髪も抜けてしまいました。

 女性としてとてもつらかったでしょうが、その苦難を乗り越えたからこその笑顔。スポーツ新聞のサイトで拝見したその顔は、健康を取り戻したように見受けられます。カレンダーには、ファンが喜ぶセクシーショットもあるようです。

 実は、卵巣にできる腫瘍には、良性と悪性があって、85%は良性。良性と悪性との中間的な悪性度なのが、境界悪性卵巣腫瘍です。このタイプは、一般に4つある組織型を問わず、悪性度の低いがん、あるいは前がん病変と考えてよく、多くは卵巣内にとどまる1期で発見されますが、麻美さんは進行した3b期だったといいます。

 手術する前の年の2012年の年末には、お腹が張ったり、便がゆるくなったりしたそうです。薬を飲んでも治らず、年が明けた1月に受診したところ、そのときにはかなりの量の腹水がたまっていたといいます。

 卵巣がんは、前がん状態を経ずに突発的にがんとして発生するケースが多いものの、一部は良性腫瘍や境界悪性腫瘍がゆっくりと段階を経てがん化することもあります。麻美さんは恐らく後者で発見が遅れてしまったのかもしれません。

 多くの場合で突発的に発生するということは、腫瘍が急激にお腹の中で大きくなるということ。麻美さんのように腹水がたまることも往々にしてあります。

 乳がんもそうですが、パートナーとの触れ合いが早期発見につながることは、珍しくありません。男性が妻のお腹をさすったりして、いつもと違うような感じがしたら、きちんと伝えてあげるといいでしょう。麻美さんは異変を感じてから手術まで2カ月ほどかかったようですから。

 境界悪性卵巣腫瘍は、抗がん剤が効きにくいことがあるのですが、麻美さんは元気に復帰されていることから、一部には境界悪性卵巣腫瘍ではなく、卵巣がんの成分があった可能性があります。卵巣がんなら、抗がん剤が効きやすいので。

 卵巣がんは、10%が遺伝的な要因で発症しますが、ほかの要素では、排卵の回数が多いと、発症しやすいと考えられています。晩婚化と少子化が重なっている今、妊娠や出産の経験がない場合や、初経が早く閉経が遅い場合はリスクが高くなる可能性があるのは、乳がんと同じです。このことは、男性も頭に入れておくといいでしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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