病み患いのモトを断つ

ミラクルひかるは腹膜炎 虫垂炎が生死を分ける中年の事情

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 想像すると、ちょっと怖い。宇多田ヒカルのものまねでおなじみのタレント、ミラクルひかる(38)が、自身のSNSで虫垂炎で入院していたときの状況を投稿。「私は穴があいていて腹中が膿浸しで、3リットルの水で洗浄」とコメントしている。虫垂炎で腸に穴があき、腹の中が膿だらけなんて、まるでホラーだ。

 盲腸といわれる虫垂炎は、軽くみられることがあるが、ちょっとコジれると、命を落としかねないから厄介だ。東京医科歯科大名誉教授の藤田紘一郎氏に聞いた。

「小腸が大腸につながるあたりに、“指サック”のような袋状の臓器が下がっています。直径は3~5ミリ、深さは5~10センチほど。それが虫垂(盲腸)です。その袋に便のもとなどがたまると、細菌が繁殖します。その結果、生じた炎症が、虫垂炎です」

 炎症があるから痛む。メカニズムは簡単だが、“震源地”は、病状によって動くという。それが虫垂炎をコジらせやすい要因で、「たかが盲腸」とバカにしてはいけないのだ。今春、虫垂炎で生死をさまよった50歳の男性は「盲腸は右下腹部という位置関係を知りながら、痛みの原因が盲腸とは思わなかった」としてこう言う。

「何となく痛みを感じるようになったのはヘソの上か右側でした。そこは胃に近い。もともと、胃が弱くて、胃痛に悩まされていて、痛みの原因は胃炎のせいだと踏んでいました。2、3日様子を見ると、軽くなっていたのもあって。しばらくするとまた痛むのですが、やっぱり軽い。そんなことを繰り返すうちに、右下腹部が痛み始めた。でも、仕事もあって、鎮痛剤を飲むとよくなるんです。その数日後でした。あまりの痛みにベッドで膝を抱えて丸くなったまま動けなくなったのは……」

■治療で切除すると大腸がんリスクは2倍に

 虫垂炎が悪化して、腹膜炎を起こし、腹壁に穴があき、その穴から膿が腹部に漏れ出す。ミラクルと同じ症状で、2人とも腹部の洗浄でピンチを脱しているが、“膿浸し”が長引けば、命を落とす。「たかが盲腸」とバカにできないゆえんである。

「痛みがヘソのあたりにあるときは、程度も軽く放置されやすい。それが右下腹部に移ったら、かなりひどいはずで、吐き気や発熱もあるでしょう。右下腹部の痛みと吐き気、発熱は虫垂炎の3大症状。激しく痛む場所は震源地そのものですが、鎮痛薬で治まる経験があると、それが刷り込みになって、激しい痛みでさえ放置されることが少なくないのです。仕事や家庭の事情で休めなかったりすると、なおさらでしょう」

 20歳くらいまでは、生理的なリンパ節の増殖に加え、病的なリンパの増殖が重なると、虫垂の“袋”が塞がることがあるという。10代に発症のピークがあるのはそのためだが、70代まで満遍なく発症するから、予防策や万が一の対応は覚えておきたい。

「便が詰まるのがよくありません。食物繊維は、便の排出をスムーズにする働きがあるので、食物繊維が豊富な食事を心掛けること。虫垂炎の初期症状も、大腸のほかの病気の症状も、ひいては便秘の症状も、とても似ています。腹膜炎を起こしてからでは厄介なので、腹痛はとにかく痛みが軽いうちに受診すること。それが鉄則です」

 虫垂炎は外科切除と薬物療法があるが、早期なら薬で治る。

 しかも、虫垂を切除した人は、していない人に比べて2倍以上大腸がんになりやすいという研究結果もある。そのデータを踏まえても早期治療が肝心だ。

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