お年寄りだけじゃない…餅が詰まりやすい人の特徴と対処法

餅による窒息事故は1月に集中する
餅による窒息事故は1月に集中する(C)日刊ゲンダイ

 若水、おとそ、書き初め―。お正月の家庭内行事は廃れる一方だが、お餅だけは食べるという人は少なくない。しかし、このお餅が災いになることがあるので注意したい。昨年の元日は、東京で餅をのどに詰まらせた15人が救急搬送された。うち2人が死亡、7人が心肺停止や意識不明の重体だったという。搬送されたのは70代、80代の高齢者中心だったが、50代も2人含まれている。餅を詰まらせるのは「高齢者だけ」だけではない。なぜお餅をのどに詰まらせるのか、万一のときは、どうすればいいのか? 日本救急救命士協会会長で、帝京平成大学健康メディカル学部准教授の鈴木哲司氏に聞いた。

■噛んでいるつもりがのみ込んでいる

「食べ物をのどに詰まらせる事故のうち、原因食品がハッキリしているのは、おかゆ、お餅、ご飯、肉です。そのうち餅による窒息事故は1月に集中していて、65歳以上の高齢者の9割が占めることがわかっています。ただし、1割の人は64歳以下。若い人でもお餅は注意が必要です」

 通常、息をするときは食べ物の通り道である食道が閉じて空気の通り道である気道が開き、空気が肺に入る。食べ物をのみ込むときはその逆で食道が開き、気道が閉じる。息ができなくなるのは、気道の入り口を餅が塞いでしまうからだ。

「高齢者は、歯を失うなどして噛む力が衰えているのに加え、舌などの口腔内の筋肉で食べ物をのどに送る力などが低下しているからです。しかも、唾液量が減るためのみ込む力も弱まります。つまり、本人は噛んでいるつもりでも実際はのみ込んでいる、早食いしているケースがあり、それが気道のふたの部分に食べ物がどんどん詰め込まれていく詰め込み食いにつながり、気道が開かなくなる原因になっているのです」

 それでも咳をして詰まった餅を押し返すための防御反応ができればいいが、年を取るとその力も弱まるという。

 高齢者は姿勢も問題で、背中をまるめた猫背の場合、顎が上がって、顎の噛むための筋肉が十分発揮できずに気道に餅が詰まりやすい。椅子にしっかり座らず足をぶらぶらしていると体が安定せず、のみ込むための首の筋肉が動かしにくいからだ。

「若い人でも最近は歯が悪い、噛む力が衰えている、唾液量が少ない、のどの奥に食べ物を運ぶ筋力が低下しているケースも多い。餅の事故は若いから大丈夫というわけではないのです」

 それにしてもなぜ、食べ物のなかで餅がのどに詰まりやすいのか。その理由は、餅の温度にある。餅は表面温度が体温位近い40度以下に低下すると硬くなり始める性質がある。冬は室温が低く、餅を口の中に入れてのどに送るまでに外気に触れるため温度が30度くらいに低下することで一層硬くなる。しかも、餅の温度が体温以下になると、口の中で餅同士がくっついたり、のどの粘膜にくっついたりしてはがれにくくなる。そのため、気道を塞いでしまうリスクが増すのだ。

■のどに詰まった異物を取る方法は2つ

 では、どうすれば餅がのどに詰まる事故を防げるのか?

「最初からのみ込みやすいように餅を細かく切ること。良く噛んで食べること。餅を食べる前にはお茶や汁物などでのどを潤すこと、唾液をたくさん出せるように餅を食べる前にはおしゃべりをするなど口の準備運動をしておくことも大切です」

 万一、お餅を食べているときに親指と人さし指でのどをつかむ仕草をするなど息苦しそうな動きが見られ、急に顔色が悪くなるなど窒息が疑われる状況が起きたら、直ちに119番通報し救急車を呼び、応急手当をすることだ。

「のどに詰まった異物を取る方法は2つあります。『腹部突き上げ法』と『背部叩打法』です。『腹部突き上げ法』は、窒息している人の後ろからウエスト付近に両手を回し、一方の手でへそを確認します。もう一方の手で握りこぶしを作り、親指側をへその上でみぞおちの下あたりに当てます。へそを確認した手で握りこぶしを作り、すばやく自分の手前上方に向かって圧迫するよう突き上げます。乳児や明らかに妊娠していると思われる女性、高度な肥満者には、『腹部突き上げ法』は行いません。異物が取り除けたとしても救急車が来たら隊員にその旨を話しましょう。『腹部突き上げ法』を実施した場合は、窒息している人の腹部の内臓を傷つけている場合があるからです。背部叩打法は、窒息している人の肩甲骨の真ん中あたりを手のひらで力強く叩く方法です」

 せっかくのお正月、事故がないよう餅には十分注意することだ。

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