のどだけじゃない…お餅による消化管の閉塞・穿孔に要注意

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 餅の事故というと高齢者がのどに詰まらせることをイメージしがちだ。しかし、お餅を腸に詰まらせる中高年も少なくない。注意が必要だ。「北品川藤クリニック」(東京・品川区)の石原藤樹院長に聞いた。

「お餅を丸のみしてのどは無事通過したものの、小腸などで餅が詰まったり、その影響で腸管に穴が開いたりするなどの消化器障害を起こすことは珍しいことではありません。それで治療・入院するケースは全国の病院で少なからず報告されています」

 2013年の日本消化器病学会誌に発表された「餅により消化管障害(イレウス、潰瘍)をきたした8症例の検討」では、63歳のある男性の例が報告されている。入れ歯を外したまま、雑煮の餅を丸のみし、翌朝からお腹が膨らむとともに吐き気・嘔吐に苦しみ、発症から2日後に入院したという。病院では腹部CTで小腸を閉塞している餅を確認。「餅による小腸イレウス(腸管麻痺により腸管蠕動運動が低下すること)と診断し、絶飲食、補液などによる治療を開始したところ、腹痛は改善。翌日には餅は直腸内に移動、その日のうちに餅はその形を保ったまま排泄されたという。

 また、85歳の男性は昼食に出された雑煮の餅をよく噛まずに食べたところ、みぞおちに痛みが。「小腸イレウス」と診断され、治療で無事餅は体内から消えたが、その後の検査で胃潰瘍が見つかった。ピロリ菌の感染の疑いが否定され、非ステロイド性抗炎症薬の使用歴もなかったことから餅が原因と判断され、さらなる治療を行い、無事退院したという。

 論文では餅による消化管障害は50~60代が多く、2対1で男性に多いと報告されている。餅を食べてから症状が表れるまで数時間から1日が多く、遅くとも4日以内に表れたという。手術で消化管から摘出した餅のなかには3カ月以上消化されずに腸管内に硬くなって残っていて、穿孔を起こした症例も報告されている。

 それにしても餅は胃や大腸でなく小腸で詰まることが多いのはなぜか?

「胃の出口で、十二指腸(小腸)につながる幽門部を通過できるのは、通常2センチ以下と言われています。しかし、小腸で問題を起こした餅はいずれも2センチ以上だったようです。恐らくは温度が高く形を変えやすい状態の餅なら通過できるのでしょう。ただ、小腸ではお餅の温度が下がり、腸管壁にくっつき、硬くなったために小腸イレウスが発症したと考えられています」

■つきたての餅を避けるのもベター

 では、餅を腸に詰まらせないためにはどうしたらいいのか? 餅を食べるときにはあからじめ小さく切った餅を、よく噛んで食べるのはもちろんだが、水分を積極的に取るのも手だという。

「餅米は普段食べているうるち米と違ってでんぷんの成分がアミロペクチンだけでできています。アミロぺクチンは枝分かれがたくさんあり、伸ばしても形が変わるだけで切れにくい性質です。だからこそ餅は形も変えられ、伸びるのです。ただ、アミロべクチンは温度が下がると硬くなります。水を取りこんでいた枝が縮んで硬くなるからです。ですから餅を食べるときは水分を積極的に取るといいかもしれません」

 意外なことだが、自分でついた餅よりも市販のものを使った方がいいともいう。

「心配な人はつきたての餅を避けるのも手です。よく市販のお餅よりも手でついた餅の方が伸びがいいと人気ですが、餅つきによって難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)が増えるといわれています。これは小腸までは消化されないでんぷんのことです。最近は餅の付着性を抑えた市販の餅も開発されています。気になる人は市販の餅を利用するのもいいかもしれません」

 ちなみに餅を食べてお腹が張る、調子が悪いという人はしばらく飲食を抑えること。腸の蠕動により腸が腸管の太い大腸に下りてくるのを待つといいという。

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