温泉や銭湯につかるのが気持ち良いシーズン。そこでよく見かけるお年寄りは、どういうわけか熱い風呂を好む。ヤケドしそうなほどの湯船に体を沈め、外の景色やペンキ絵を眺めていたりする。なぜ平気なのか。入浴について研究している東京都市大学の早坂信哉教授(医学博士)に聞いた。
「まず単純に、加齢により熱さを感じる皮膚感覚が鈍っていることがあります。50歳以下だと0.5度の温度差が分かるのに、65歳以上だと人によって1~5度と鈍くなる。理屈では、若い人が熱いと感じるより5度高いお湯でも平気ということです」
感覚の鈍化に加えて、見逃せないのが「暑熱順化」。時間や経験とともに熱い湯に体が慣れる反応だが、好んで熱い湯を選ぶ人も多い。
「熱い風呂は交感神経を刺激するので、シャキッとする感覚があります。たとえば草津温泉には47度のお湯につかる『時間湯』という入浴方法がありますが、群馬大学の調べによると、時間湯を好む人の脳内では快楽物質のβエンドルフィンが増加していました。つまり、熱い湯が病みつきになるのです」
若い人でも熱い湯でシャキッとしたり、脳内物質が出たりするだろうが、高齢者はそれが感じにくい。だから、どんどん熱く――というスパイラルに陥るのかもしれない。
熱い湯は個人の嗜好の問題とはいえ、高齢者は注意が必要だ。
「高齢者は熱さに対する感覚が鈍るだけでなく、体温の調整機能も落ちています。つまり、体の中に熱がこもってしまい、冬場でも浴室熱中症などになりやすいのです」
急激な血圧上昇による脳卒中や心筋梗塞などヒートショックのリスクも高まる。どうすれば高齢者の入浴事故を防げるのか。
「温度を少しずつ上げれば急激な血圧上昇は防げます。また、炭酸ガス系の入浴剤は、泡が皮膚を刺激するので2度くらい温かく感じる。それらに加えて、本人の感覚に任せず、家族が給湯器の表示などで適温をチェックしてあげることも大切でしょう」
熱い湯に入って「極楽、極楽~」もいいが、そのままあの世行きではシャレにならない。
街中の疑問