性感染症最前線

梅毒<1>典型的な症状が出ないからといって安心はできない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 国内の「梅毒」患者の報告数が爆発的に増えている。戦後1940年代後半は年間22万人も報告されていたが、ペニシリン(抗生物質)の登場により約10年で激減。その後、67年の年間約1万2000人をピークに、90年代半ばからは1000人未満で推移。それが2011年以降、急増し始める。15年には2698人、17年は44年ぶりに5000人を突破。昨年(12月2日現在)は6300人以上にもなった。

 最近の梅毒の特徴について、性感染症専門施設「プライベートケアクリニック東京」(新宿区)の尾上泰彦院長が言う。

「男性は20代から各世代、幅広く報告があるが、女性はなぜか20代が突出して多い。感染は大都市中心に増加し、それが地方都市にも拡大しています。症状は極めて多彩で『偽装の達人』といわれますが、非典型の経過をたどったり、無症状であることも普通。進行形態が複雑化しています」

 梅毒は、風疹などと同じで第5類感染症に分類され、医師に発症届け出(全数報告)が義務づけられている。しかし、「梅毒は昔の病気」と思っている人が多く、若い医師は梅毒の診療経験がほとんどないので、現在の報告数は氷山の一角とみられているという。

 病原体は「梅毒トレポネーマ」と呼ばれるらせん状をした細菌の一種で、皮膚や粘膜の微細な傷口から侵入し、感染する。典型的な症状は、感染から通常1カ月前後に最初(早期梅毒第1期)の症状が現れる。性器や肛門周辺などの感染した部位に「しこり」や「潰瘍」ができるのだ。また、同時に股の付け根のリンパ節が腫れることもある。

 これらの症状は痛みがないことが多く、治療をしなくても1カ月ほどで自然に軽快する。しかし、体内から病原体が消えたわけではなく、時間をかけて次々と体をむしばんでいく。特に妊婦は要注意という。

「妊婦が感染すると、『先天梅毒』といって胎児に感染し、死産、早産、新生児死亡、奇形などを起こす場合があります。先天梅毒の報告(16年は14件)も梅毒増加に伴って年々増加しています」

 では、なぜ近年急増しているのか。届け出の周知が徹底されてきたからという見方もあるが、外国人観光客の急増が影響しているのではないかという指摘もある。たとえば中国で最も猛威を振るっている性感染症は梅毒。中国衛生部の報告によると、16年度の梅毒感染者数は46万4457人で、15年前の15倍以上に増加しているという。

 次回は、「偽装の達人」といわれる梅毒の多彩な症状を取り上げる。

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