「がんの時代」(海竜社)という本を昨年10月末に出版しました。しかしその2カ月後に、自分自身が膀胱がんの手術を受けるとは思ってもみませんでした。日本人男性の3人に2人近くががんになるとはいえ、一番のリスクである喫煙をせず、メタボでもなく、「まさか自分が……」という思いです。
12月27日に東大病院に入院し、翌日に手術を受けました。下半身麻酔でしたから、電気メスによる切除の様子もモニター画面で見ることができました。40分という短時間で完全に取りきれたのは幸いです。しかし、再発予防で膀胱内に抗がん剤注入も受けています。
麻酔が切れると、下腹部が激しく痛みました。痛み止めが不可欠です。その処方をお願いして楽になりましたが、この治療を受ける全員に痛み止めが必要だと思います。痛みを我慢してよいことは全くありません。痛みの程度は本人しか分からないので、遠慮は不要。自分のこととはいえ、緩和ケアの大切さが身に染みました。
入院は4泊で、大晦日に退院。しかし、膀胱がんは再発しやすいがんの一つです。今後は長期にわたって、定期的なフォローアップの受診が欠かせません。
がんは臓器のもっとも表面の「上皮」から発生して、外側に広がっていきます。私の場合、カリフラワー状の「表在性がん」でしたから、内視鏡切除が可能でした。
東大病院の医師が患者になると、パスワードをかけてカルテの閲覧を制限することが多いのですが、私の場合はだれでも自由に見ることができるようにしてあります。私自身、入院中に自分の部屋に行って、カルテを見ていました。そこで目にしたがん細胞の悪性度は、1~3の真ん中の2。
手術前は漠然と「1ならよいなあ」と思っていただけに、かなりショックでしたが、それでも不幸中の幸いだと思っています。
もし、発見が遅れて、膀胱の筋肉層にまでがん細胞が広がっていたとすると、全摘が必要に。その場合には、小腸の一部を切り取った上で、尿をためるストーマ(人工膀胱)を作ることが一般的になります。「立ちションができなければ、文太じゃねー」と同じ膀胱がんで亡くなった菅原文太さんが語ったように、その後の生活にも影響が出ていたかもしれません。その点、早期発見でストーマを免れたのは、不幸中の幸いでしょう。
この連載で何度も書いてきたように、がんは症状を出しにくい病気です。まして、早期ではほとんどの場合、何も感じません。私の膀胱がんも、全く自覚症状がありませんでした。脂肪肝のチェックで自分で行っていたエコー検査のついでに発見できたのは本当にラッキーでした。
膀胱がんの「セルフチェック」(笑い)はさておき、乳がんの自己触診など、日本人はもっと自分の体を大切にするべきでしょう。ぜひがん検診をきちんと受けることから始めてください。