役に立つオモシロ医学論文

インフルエンザ新薬「ゾフルーザ」は本当に革新的なのか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 インフルエンザが本格的な流行シーズンを迎えていますが、「ゾフルーザ」(一般名:バロキサビルマルボキシル)という新しい抗インフルエンザ薬に注目が集まっているようです。

 1回分を服用するだけで有効性が期待できるという特長から、即効性があり効き目も強い、などとインターネットやマスメディアでも取り上げられています。

 そんななか、世界的にも権威のある医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌」に、インフルエンザに対するゾフルーザの有効性を検討した研究論文が2018年9月6日付で掲載されています。

 この研究では、12~64歳のインフルエンザ患者1432人を、ゾフルーザ投与群(610人)、従来から用いられている抗インフルエンザ薬の「タミフル」(一般名:オセルタミビル)投与群(513人)、プラセボ(薬効成分のない偽薬)投与群(309人)の、3つの集団にランダムに振り分け、インフルエンザ症状緩和までの時間が比較されました。

 解析の結果、インフルエンザ症状の緩和までの時間(中央値)はゾフルーザ群で53.7時間、プラセボ群では80.2時間と、ゾフルーザ投与群で、1日ほど統計学的にも有意に短いことが示されました。しかしながら、タミフル投与群との差は認められず、従来薬と比較して優れていることは証明されませんでした。

 確かに1日1回で済むなど用法上のメリットがあるゾフルーザですが、その有効性に関しては従来薬とほぼ同等であり、プラセボと比較して、症状の回復を1日程度早めるというものです。また、インフルエンザの重症化を予防するような効果も現時点では証明されていません。

 一部のウェブ情報では、同薬の有効性を過大に評価している印象があり、注意が必要です。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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