人生100年時代を支える注目医療

AIで糖尿病を予測 3年以内の発症リスクを瞬時に表示する

簡易版は12項目入力のみでOK
簡易版は12項目入力のみでOK(提供写真)

 AI(人工知能)を使った医療への応用が数多く進められている。国立国際医療研究センター(東京都新宿区)が昨年10月にホームページ上に公開したのが、糖尿病の発症リスクをAIが予測する「糖尿病リスク予測ツール」だ。

 国内では、糖尿病が強く疑われる人が約1000万人、糖尿病の可能性を否定できない人が約1000万人と推定されている。この“AI予測”によって、糖尿病への関心が高まり、予防のための食事や運動などの生活習慣の改善につなげてもらうのが狙いだ。

 本ツールはソフトウエア会社と共同開発したもの。同センターの担当者である疫学・予防研究部の溝上哲也部長が言う。

「使い方は簡単で、ツールの項目に予測に必要な情報を入力するだけです。年齢、身長、体重、血圧、喫煙習慣などの全12項目の基本データだけでも予測できますが、追加項目として空腹時血糖やヘモグロビンA1cなどの血液データ全9項目を入力すれば、さらに精度の高い予測ができます」

 結果は瞬時に表示され、「3年以内に糖尿病を発症する確率(%)」とともに、「同性・同世代との相対的なリスクの比較(%)」がグラフ上に示される。

■対象は30~59歳

 このAI予測には、AIを作成するニューラルネットワークという機械学習の一手法が用いられている。ニューラルネットワークとは、人間の脳の神経細胞のニューロンをプログラム上で再現し、データを与えて計算させる機械学習の手法。その与えているデータは、職域多施設研究(職場健診)で収集した糖尿病にかかっていない3万人の追跡調査による蓄積データに基づいているという。そのため予測の対象としているのは、糖尿病と診断されたことのない30~59歳の働く世代だ。

「従来の統計学的モデルによるリスク予測は、そのデータの平均的な傾向を見つけだしてリスクを算出していました。一方、AI(機械学習)はモデル自身がデータを学習し、特徴や法則性を見つけだします。ですから、各項目のデータの組み合わせに即した柔軟な予測ができるのです」

 そのためAIの予測判定は複雑で、なぜそのような結果になるのか説明が難しい場合もあるという。例えば、肥満度や腹囲が大きいほどリスクが高まる傾向にあるが、こうしたリスク要因の影響の度合いは、他の検査データによって一様ではない。AIは実データに基づいてそのあたりのさじ加減をモデル化し、柔軟に予測しているわけだ。

 AI予測の開発には、データを学習させるのに約半年、ホームページ上で利用できるシステムづくりに約半年かかっている。開発のポイントは、どんなところにあるのか。

「糖尿病の予測にAIを導入したことで注目されましたが、実は重要なのはAI自体よりも、どれだけ質の良いデータを使用しているかです。データの品質が低ければ、AIは間違った結果を出してしまう。そういう意味で日本では労働者に対する健診が義務づけられているので、偏りのないデータがそろっています。それをAIに学習させることで、糖尿病の正確なリスク予測が可能となったのです」

 AI予測の結果表示のページには、同センターが設置する「糖尿病情報センター」のホームページにアクセスするリンクが張られている。これらのツールを使って多くの人に糖尿病のことを詳しく知ってほしいという。

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