患者と医師は対等とはいっても、その立場は最初から違っている現実があります。患者はがんと診断されると、時々死を頭に浮かべ(その必要がない場合でも)、人生設計を変えなければならないかもしれないと考えてしまうのに、医師自身は“死の安全地帯”にいて、目の前の患者は自分が担当する数十人のうちのひとりでもあるのです。
医師は時間を取り、たくさん説明し、質問を受け、「患者に治療内容を十分理解いただいた。インフォームドコンセントがしっかり行われた」と思ったとしても、患者の心の中の思いは一人一人違います。
手術を前にして、医師は最悪の場合を想定して合併症などの説明もします。患者は「お任せします」と口にします。中には「先生に命を預けます。どうなっても文句は言いません」とまで言われる方もいます。
しかし、それは「手術がうまくいきますようにお願いします」と言っているわけで、言われた通り「どうなっても文句は言わない」ということではありません。患者の頭の中で「良い結果」を想定しての言葉なのです。良い医療をしていただくために、医師の機嫌を損ねたらいけない……と気遣ったりもするのです。
がんと向き合い生きていく