腎細胞がんは常識が通じない いま知っておきたい4つのこと

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 免疫チェックポイント阻害薬の登場で、生命予後が大きく変わったがんはいくつもある。腎臓がんのほぼ9割を占める腎細胞がんもそのひとつだ。腎細胞がんは、手術が不可能、または再発・転移した場合、1次治療から2つの免疫チェックポイント阻害薬オプジーボとヤーボイの併用が昨年8月から可能になった。

 また、別のチェックポイント阻害薬アベルマブとアキシチニブ、さらに同ペムブロリズマブとアキシチニブによる1次治療の併用療法で、それぞれ有効性があったとの発表もなされている。あまり知られていない腎細胞がんの知識も含め、慶応義塾大学病院泌尿器科教授の大家基嗣医師に聞いた。

■高リスクは透析患者

 透析患者には10~60倍の頻度で発生する。

「透析を受けるとブドウの房のような嚢胞がたくさん出てきます。そこに老廃物がたまり、前がん病変のようなものが多発する。透析患者は老廃物を排出できず、細胞を刺激してがんが出来やすくなるのではないか、と考えられています」

 肥満、喫煙、高血圧も古典的リスク要因と呼ばれている。近年は、高脂肪食や運動不足がリスクを高めるとの指摘も。

■自覚症状なし

「早期では全く症状がなく、ほとんどが検診で発見。腹部超音波やCTスキャンで見つけます」

 定期的な人間ドックや健康診断での尿検査、腹部超音波が必要。

■10年後も再発

 ほかのがんの常識は、腎細胞がんに当てはまらない。

 そのひとつが、手術後5年以上経過でも再発すること。多くのがんは手術後5年経過すると治癒したと判断されるが、腎細胞がんは違う。

「早期がんの再発は5年以降がほとんど。10年でも怪しく、再発する人が結構います。だからCTを1年に1回は撮らなくてはなりません」

 ほかのがんであれば、再発を宣告されると絶望感に襲われるかもしれない。しかし、腎細胞がんは早期発見なら再発でも手術が可能で、またその後何年も異常なし、という場合が少なくない。

■複合免疫療法へ

 早期の腎細胞がんでは、根治を目指して手術が行われる。それが不可能な進行がんには、かつては分子標的薬が使われた。しかし前述のように、今は複数の免疫チェックポイント阻害剤による「複合免疫療法」が行われ、今後は選択肢が増えていくとみられている。

「オプジーボとヤーボイの併用では、全生存期間の延長だけでなく完全奏効(腫瘍が完全に消える)の可能性も出てきました。さまざまな薬剤が微小免疫環境に影響するのです」

 ただし、副作用の問題から、すべての進行がんに複合免疫療法が行われるわけではない。ヘモグロビン値、好中球、血小板など6項目の“予後予測因子”からリスクを低・中・高(Favorable・Intermediate・Poor)の3つに分け、適用のグループに該当した場合に複合免疫療法になる。予後予測因子がゼロ(3つのグループのうちリスクが最も低いFavorable)なら従来の分子標的薬、3個以上の高リスク(Poor)は複合免疫療法だ。

「10人患者がいたら、6人は予後予測因子が1~2個該当するIntermediate(中リスク)というケースが多い。しかし、皆が同じ予後ではなく、Poor(高リスク)に近い人、Favorable(低リスク)に近い人もいます。私たちの研究では、体内に炎症が起こっていることを示す数値CRPが0・6以上がPoorに近く、未満がFavorableに近い」

 だからIntermediateの中リスクでは、CRPの数値を参考に従来の分子標的治療で行うか、オプジーボとヤーボイの併用療法を行うかの判断をしている。

 いずれにしろ、腎細胞がん治療が、新たな一歩を踏み出したことは確かだ。

関連記事