役に立つオモシロ医学論文

記憶を回復させる薬か マウスと人間での研究結果が論文に

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 記憶は忘れてしまっても、ふとした瞬間に思い出すことがあります。しかし、忘れた記憶を自由に想起させる方法は今のところありません。そんな中、ベタヒスチンという薬の記憶回復効果を検討した論文が、2018年12月19日付で、精神神経疾患に関する国際誌に報告されました。

 記憶の形成には脳内のヒスタミン受容体が関与していると考えられています。ベタヒスチンは、めまいを引き起こすメニエール病の治療薬ですが、脳内のヒスタミン受容体を刺激する作用があり、記憶回復効果の可能性に期待が集まっていました。

 この研究では、マウスにおもちゃを見せて、その形を学習させています。一般的にマウスは1週間経過するとおもちゃを思い出せなくなるそうですが、ベタヒスチンを与えたところ、おもちゃの記憶を思い出せるようになりました。さらに、38人の研究参加者を対象に、たくさんの写真を見せ、その1週間後に実施した記憶テストで再び写真を見せながら、写真を覚えているかどうかを質問しました。その結果、ベタヒスチンを服用していた人では、そうでない人に比べて11%、統計学的にも有意に正解率が高いという結果でした。

 とはいえ、この研究結果のみで、ベタヒスチンに記憶回復作用があると決定づけることは難しいでしょう。記憶の形成や想起には、さまざまな要因が複雑に絡んでいるため、実験環境ほど単純ではないからです。また、ベタヒスチンはめまいの治療薬です。既に服用している方もいらっしゃるかもしれませんが、用法用量を守らないと思わぬ副作用が出ることがあります。自己判断で決められた量よりも多く飲むことはやめましょう。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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