患者が語る 糖尿病と一生付き合う法

何かをうまくできない夢を見て目覚めた時はほぼ低血糖

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 最近は血糖コントロールもだいぶ安定しているものの、一時は意識障害に至るような低血糖も頻繁に起こしていた。

 そんな時、頭に自然と繰り返し浮かんできた情景がある。現実の光景とは別に、白昼夢のような形で脳内にそのイメージがあふれ出してくるのだ。

 ひとつは、寂寥(せきりょう)とした小さな丘だ。ゴツゴツした岩がところどころから露出している荒れた地面の隆起を、一人で登っているような感じがする。

 もうひとつは、低いところを流れている川。幅10メートルもなく、水量も乏しいが、両側に一応、石が敷き詰められた河原があり、丈の高い急角度の土手に挟まれている。

 僕はたいてい土手の上から、はるか下方を流れるその川を眺めている。そこに引かれる気持ちがある一方で、「近づいてはいけない」と感じてもいる。

■「早くてを打て」と本能が警告

 自分が死に瀕していると本能的に察知する結果、「渡ってはいけない三途(さんず)の川」がイメージ化されているのかもしれない。

 ただしこれらは、覚醒している間に意識障害を起こした時の話だ。就寝中の低血糖だと別の表れ方になることが多い。同じ情景が夢に出てくるのなら分かりやすいのだが、そうとも限らない。

 よくあるのは、原稿を直している夢だ。あるくだりを、何度も何度も書き改めている。もっとうまい表現方法があるはずだと探る一方で、「いや待てよ、ここであのことにも触れておいたほうがいいのでは?」と気が移ろい、文章がどうしてもまとまらない。

 あるいは、数学の問題を解こうとしても解けないとか、洗面台の排水口が洗っても洗ってもきれいにならない、といった夢になる場合もある。「何かがうまくいかずに焦っている」という強迫的な内容である点では共通している。

 そういう夢を見て目覚めた時、血糖値を測ると、たいていは低い。「早く手を打て」と本能が警告しているのだろう。

平山瑞穂

平山瑞穂

1968年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。糖尿病体験に基づく小説では「シュガーな俺」(06年)がある。

関連記事