Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

私自身がんになって<4>膀胱がん再発を抑えるBCGはやらない

「pTa」だったが…
「pTa」だったが…(提供写真)

 ショックだったのは、膀胱がんの病理診断の報告書を見たときです。がんの深達度は、もっとも浅い「pTa」タイプでホッとしましたが、がん細胞の悪性度は1~3の真ん中の2。しかも、2の中でもハイグレード、つまり、「かなり悪性度が高く、タチの悪い」タイプだったのです。漠然と「1ならよいなあ」と思っていましたから、ハイグレードと分かったときはかなりショックでした。

 がんは、臓器の最も表面の上皮から発生して、外側に向かって広がっていきます。私は、「表在性がん」で、内視鏡切除ができたことは不幸中の幸いです。

 それでも、膀胱がんは、再発しやすいがんの代表といえます。私のようにハイグレードだと1年以内の再発率は24%、5年以内では46%に上ります。今後は長期間、定期的なフォローアップの受診が欠かせません。数カ月に1度、尿道から内視鏡を通して調べる膀胱内視鏡検査を受けなければならないと思うと、正直、気が重くなります。

 再発が起こると、今回と同じ内視鏡切除を行うことになります。

 再発するたびにこの治療を10回以上繰り返している方もいたりします。他のがんなら、完全切除すれば治療が完了することがありますが、筋層非浸潤性膀胱がんは、再発しては手術、再発しては手術を繰り返すのです。米国では、「最も医療費がかかるがん」といわれるほどです。

 再発を予防するために有効なのは、BCG(ウシ型弱毒結核菌)を膀胱に注入する治療法があります。BCG治療による5年再発率は約4割、未実施では6~7割。

■初回治療から10年後に進展する人も

 しかし、BCG注入療法は抗がん剤注入療法と異なり、ごく軽微なものまで含むと、ほぼ全例の患者さんに何らかの副作用が表れます。排尿時の痛みや頻尿が最も多く80%、次いで肉眼的血尿が72%、排尿困難が33%などのほか、尿道痛や残尿感、陰茎浮腫などが起こることもあります。さらに60%に発熱が見られ、発熱に伴う関節痛、白血球の増多なども珍しくありません。

 初発の表在性膀胱がん患者484人を対象とした研究結果では、筋肉に浸潤した膀胱がん(膀胱全摘の対象)に進展したのは40人(8.3%)でした。進展する時期はまちまちで、最初の治療から10年経って進行するケースもあります。

 私も、ほかの早期がんと同様、症状などありませんでしたが、手術後は排尿時の痛みが続いています。早期発見は当面の生活の質の悪化と引き換えに、将来の時間を手にする行為といえるでしょう。ただ、未来は常に不透明で、がんとの付き合いは難しいものです。そんな思いから私は、総合的に判断して、BCGは使わないつもりでいます。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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