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健康な高齢者と介護が必要な高齢者の血圧治療は意味が違う

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 健康な高齢者と介護が必要な高齢者では、血圧の意味合いが異なります。

 健康な高齢者では、血圧を薬で下げることにより、脳卒中や心不全の先送り効果が確かめられています。80歳以上の介護を必要としない元気な高血圧の高齢者を対象としたランダム化比較試験では、年率1.8%の脳卒中が1.2%まで少なくなることが示されています。また副作用を疑う出来事については高血圧の薬を飲むグループで多い傾向が認められるものの、特定の病気や副作用にははっきりした差は認められていません。

 また、75歳以上の一部介護を必要とする高血圧患者を含む研究でも、脳卒中や心筋梗塞の先送り効果が介護の必要な高齢者と必要でない高齢者のいずれでも示されていますが、その一方で、腎臓の機能を悪化させるなどの副作用の危険の増大も指摘されています。さらに介護が必要な人に限れば、前回示したように、血圧が低い人のほうで寿命が短いことが示されています。

 以上を総合して考えれば、高齢者の高血圧の治療効果は、高齢になるほど、介護が必要になるほど、害とのバランスが微妙になり、脳卒中や心不全を予防する一方で、腎臓を傷めたり、寿命を短くしている可能性があります。

 高齢者の血圧を評価する際に、自立した元気な高齢者なのか、介護が必要な状態なのかを考慮するのは重要なことなのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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