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アルゴンガスでがん細胞を破壊 前立腺がんの凍結療法とは

治療費は自費で150万円(左上・東京慈恵会医科大学付属病院泌尿器科診療副部長の三木健太講師)
治療費は自費で150万円(左上・東京慈恵会医科大学付属病院泌尿器科診療副部長の三木健太講師)/(C)日刊ゲンダイ

 前立腺がんの治療法には、「全摘手術」「放射線療法(外照射療法、小線源療法)」「ホルモン療法」「経過観察(監視療法)」などいくつもある。

 何を選択するかは「年齢」「進行度」など患者の状態による。

 東京慈恵会医科大学付属病院泌尿器科では、さらに「凍結療法」という新しい治療法の臨床研究を進めており、先進医療を目指している。どのような治療法なのか。

 同科診療副部長の三木健太講師が言う。

「通常、前立腺がんの根治的な初期治療は、全摘手術か放射線療法です。治療成績は同等です。ただ、放射線療法は前立腺が残ります。そのため、放射線照射が不十分であれば再発の可能性があります。凍結療法は、根治的放射線療法後の局所再発(がんが前立腺内にとどまる)に対する治療の選択肢のひとつとして行っています」

 凍結療法はその名のとおり、がんを凍らせて死滅させる療法。全身麻酔下で行う。直腸に入れた超音波機器(経直腸エコー)の画像を見ながら、会陰部から前立腺がんに向けて3~4本の針を刺す。針先から出るアルゴンガスによって病巣部を10~15分凍結させ、温度センサーの針でマイナス30~40度になるように氷の塊を作る。その後、針にヘリウムガスを注入して急速解凍する。この凍結・解凍を2~3回繰り返すことで、がん細胞が破壊されるという。

「治療中は、隣接する直腸の組織が壊死しないように会陰部から刺した温度センサーで温度管理を行います。また、尿道にはカテーテルを挿入して、35度の温水を流して冷えすぎを予防します。治療時間はおよそ3時間、入院は2泊3日です」

■治療費は自費で150万円

 がんの凍結療法は、国内では腎臓がんに対して2011年に保険適用になっている。同大柏病院(千葉県)では01年から腎臓がんに対して実施しており、三木医師はそれに関わってきた。海外ではすでに前立腺がんに対する凍結療法が行われていたことから、国内で初めて15年から臨床研究を始めたという。

 これまで前立腺がんの放射線療法後の局所再発に実施してきたのは10例(56~81歳)。治療効果は、前立腺腫瘍マーカーのPSA値の変化で判定する。

 治療後の期間が最も長い人は3年2カ月で、最も短い人は1カ月。そのうちPSA値が上昇し、リンパ節転移でホルモン療法に移行したのは今のところ1人(1月11日現在)だけ。凍結療法自体の合併症はほぼないという。

「一般的に再発すると、ほとんどはホルモン療法が行われます。しかし、ホルモン療法は全身に作用するので、火照りや発汗、EDだけでなく、長期になると糖尿病、骨粗しょう症、心血管障害などの副作用のリスクが高まります。凍結療法の最大のメリットは、ホルモン療法開始までの期間を延ばせることです」

 再発後に全摘手術があまり行われないのは、放射線治療をすると術後に尿失禁などの合併症が起こりやすいからだ。また、三木医師は前立腺内にヨウ素を埋め込む小線源療法の専門医。放射線の外照射治療後の再発に小線源療法を行うことも可能だが、放射線に抵抗性を持つがんもあるという。
凍結療法が標準治療に加われば、それだけきめ細かな治療ができるというわけだ。今のところ再発に対する先進医療を目指しているが、将来的には初期治療につなげたいという。

 現時点では凍結療法の治療費は自費となり、150万円ほどかかる。

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