映画「がんになる前に知っておくこと」製作者に聞いた

映画「がんになる前に知っておくこと」(左・上原拓治プロデューサー)
映画「がんになる前に知っておくこと」(左・上原拓治プロデューサー)/(提供写真)

 2人に1人ががんになる時代と言われても、ピンとこない人が多いだろう。しかし、がんは身内にがん患者がいなくても、年齢が若くても、健康に留意していても、発症する可能性がある。自分でなく、家族や親しい友人がなるかもしれない。寿命が延びた今、がんと一生無縁、というのは極レアケースだ。だからこそ、がんになった時に慌てないようにしたい。2月2日公開の「がんになる前に知っておくこと」は、まさにタイトル通りの内容を伝えるドキュメンタリー映画だ。企画を立ち上げたプロデューサーの上原拓治氏にインタビューした。

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 2016年3月5日、妻の妹をがんで亡くしました。発病してから1年も経っていませんでした。彼女は私より年下の41歳。それまで周囲にはがん患者がひとりもおらず、がんと聞いてはいましたが、すぐ治るだろうと軽く考えていた。呆然としました。私だけでなく、妻も、妻の母親も……。恐らく、義妹も自分ががんになるとは思っておらず、受け入れられてなかったと思います。

 今まで遠くにあったがんという存在が、急に身近に感じました。ショックだったこともあり、がんとはどういうものか基本的な知識を教えてくれるようなものを探し始めたのです。ところが、見つからない。ある程度、がんの知識を持つがん患者を対象にしたものや、がん治療の最前線を追ったものはあるんです。ところが、特に映像では、私が知りたい情報に応えてくれるものがなかった。それなら自分で作ろうと思ったのがきっかけです。

 がんは怖いもの。がん治療は一日でも長く生きるために行うもの。これらは、取材を始める前の私のがんに対するイメージです。

 しかし、完成までの3年近い年月の中で、私の考えは変わりました。今はがんと共存できる時代。医療には100%はなく、何を自分が大切にしているかを考え、「人生の質(QOL)」を第一にした治療を探っていくべきだと。がんについて知ることで、がんは怖いものというイメージは消えました。

 未公開シーンなのですが、出演者のひとり、腫瘍内科医の勝俣範之先生(日本医大武蔵小杉病院)の診察の場面を撮影したことがあるんです。その患者さんは、もともと「抗がん剤は絶対に嫌、絶対にやりたくない、勝俣先生も拒否」という方でした。ところが、趣味の音楽で勝俣先生と話が合った。勝俣先生のパーソナリティーに触れ、抗がん剤治療に偏見がなくなり、現在も抗がん剤治療を受けられています。

 取材を通じて最も強く感じたのは、医師や看護師ら、さまざまながん治療に関わる人は皆、がんについて、患者について、熱く親身になって考えてくれているということ。ところが、限られた診療時間では、患者にそれが伝わりづらい。結果的に医師へ不信感を抱き、有効性が証明されていない民間療法などへ走ってしまう患者がいる。一方で、勝俣先生の患者さんのように、拒否の気持ちがガラリと変わる方もいる。

 映画では、医師と患者の間に入ってくれるがん看護専門看護師、がん相談支援センター、ピアサポーター、NPO法人マギーズ東京などの方々にも出演してもらっています。彼らの存在もまた、自分が人生の中で一番大切にしているもの・ことを重視した治療を選べ、がんと共存していくために、欠かせません。

 がんを知ることで、がんへの恐怖は薄れていく。私は今、自分ががんになっても、ああいう先生方がいるから大丈夫だ、と心から思っています。

■映画「がんになる前に知っておくこと」

 がん治療を専門とする腫瘍内科医、外科医、放射線腫瘍医、がん専門看護師などの医療従事者、がん経験者など15人の対話から、がんとはどういうものかを学んでいく。新宿「K’s cinema」での公開期間中、出演者を迎えての劇場イベントを開催。(2月2日(土)から新宿K’s cinemaほか全国順次公開)

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