健康状態の改善には医療が重要だと思われることも多いですが、健康問題に医療そのものが寄与している割合は、私たちが想像しているよりも小さい可能性があります。
米国のデータによれば、良質な医療が無償で提供されたとしても、早期死亡を減らすことができるのは10%にすぎず、医療がもたらす影響よりも、健康に関連した行動や社会的環境の方が大きいことが示されています。
そんな中、高齢者の文化的な活動頻度とうつ病リスクの関連性を検討した論文が、2018年12月18日付で英国の精神医学誌に掲載されました。
この研究では、うつ病を有していない高齢者2148人(平均年齢62.9歳)が対象となっています。被験者の博物館や劇場、映画館、美術館といった文化的施設の利用頻度と、うつ病リスクの関連性が10年にわたり調査されました。なお、結果に影響を与えうる年齢、性別、社会経済的状況、学歴などの因子で統計的に補正を行って解析しています。
解析の結果、うつ病の発症リスクは文化的施設への利用頻度がまったくない人に比べて、月1回利用する人で32%、月に1回以上利用している人で48%、統計学的にも意味のある水準で低下しました。
もちろん、文化的施設の利用によってうつ病のリスクが低下したのか、もともと精神的に健康な人が文化的施設を頻回に利用していたのか、この研究結果のみで判別することは難しいといえます。
とはいえ、社会的環境や人の行動そのものが、健康状態に大きな影響を与えうるという報告は多数あります。文化的施設の利用は、良好な社会的環境の維持に寄与し、結果的に健康状態にも良い影響が期待できるかもしれません。
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