患者が語る 糖尿病と一生付き合う法

もしもの時のためのインスリン備蓄で生じた思わぬ問題とは

写真はイメージ
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 僕が使っているインスリン注射器は1本3ミリリットル入りだ。これを何十回かに分けて体に投与し、おおむね10日前後で1本を使い切ることになる。そしてこれを僕は、実際に必要な量よりもだいぶ多めに処方してもらっている。

 1型糖尿病患者にとって、インスリンは何よりも重要なライフラインだ。万が一、外出中に注射器を紛失してしまったら? 何らかの問題が発生して、何カ月も処方を受けられないような事態に立ち至ったら?

 当初はそんなことが心配で、少しでも備蓄しておこうという心積もりだったのだが、次第に「多めに処方してもらう」のが習慣になってしまい、気がついたらストックが40本を超えていた。

 使用期限はたいてい1、2年先になっているので、無駄になりはしないはずだ。備蓄が多いに越したことはないと思っていたところ、ひとつ問題が発生した。

 それまで僕は、食事開始30分前に打つ「速効型」インスリンを使用していたのだが、ある理由で、それを食事直前に打つ「超速効型」に切り替えることになったのだ。

 インスリンは、決して安価な薬剤ではない。それまでのストックを丸々廃棄するのは忍びなかった。そこで僕は一計を案じ、両者を場合に応じて使い分けながら「併用」することにした。

 食事開始時間を読みづらい外食の時は、「超速効型」が圧倒的に便利だ。また、妻が夕食を準備してくれる際も、余計な心配をかけないようにするためには、このタイプにする必要がある。

 しかし、それ以外のときには、自分できちんと管理できている限り、「速効型」でも問題はない。幸い今や、例の最新型グルコース値測定器もあるから、ひとりでいる時でもよほどのことがなければ昏倒してしまうような心配はない。

 この使い分けを励行して1年半ほどで、「速効型」のストックは無事、残り数本まで消化することができた。何事かを成し遂げた気分だ。

平山瑞穂

平山瑞穂

1968年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。糖尿病体験に基づく小説では「シュガーな俺」(06年)がある。

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