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女性不妊の新治療 月経血の幹細胞を使う子宮内膜再生増殖法

はらクリニック・原利夫院長
はらクリニック・原利夫院長(提供写真)

 女性不妊の原因のひとつに「着床不全」がある。女性は排卵すると黄体ホルモンが分泌され、子宮内膜を厚くして受精卵の受け入れ準備を始める。そこに受精卵がやってきて、子宮内膜の1カ所に定着したら“着床”となり、妊娠が成立する。

 着床不全は主に、加齢などの原因で子宮内膜が十分に機能しない(子宮内膜不全)、もしくは受精卵の質の低下によって起こる。子宮内膜不全に対しては、これまで血流改善療法やホルモン補充療法などが行われてきたが、効果的な治療法がないのが現状だ。

 そこで近年では、さまざまな細胞に分化できる「幹細胞」を利用した新たな治療法の開発が期待されている。

 不妊治療専門施設「はらメディカルクリニック」(東京都渋谷区)が、今年2月から臨床研究の参加者募集を始めた「子宮内膜再生増殖法(ERP)」もそのひとつ。同院の原利夫院長が言う。

「子宮内膜の再生のために幹細胞を用いるのですが、幹細胞自体を使うわけではありません。幹細胞を培養したときにできる上澄み液(上清液)には、サイトカインや成長因子など数多くの有効成分が含まれます。その液を子宮内に注入して、内膜を再生、蘇えらせるのです」

 幹細胞培養上清液を使った治療は、すでに美容医療で皮膚の肌質改善などに用いられており、組織を再生させる点で効能のメカニズムは同じだ。ただ、通常は患者の皮下脂肪に存在する脂肪由来間葉系幹細胞が使われることが多い。ERPでは、患者の月経血に含まれる「月経血由来幹細胞(間葉系幹細胞)」を使用するのが特徴だ。

■着床不全の35歳以上が対象

 ERPの流れは、月経1~3日目の月経量が多い日に来院。月経血(3~5㏄)の採取は、痛みはなく1分程度。その後、月経血から幹細胞を抽出し、30日間培養。

 そして、標準着床時期の2~5日前に、培養でできた上清液を患者の子宮内に注入する。注入から3~4日目にエコーで子宮内膜が厚くなったことが確認できたら、事前に体外受精で凍結しておいた受精卵を子宮内に戻すといった運びだ。

「対象となるのは、体外受精に何度も失敗していたり、内膜の状態が悪く着床不全の疑いなどと診断されている人。ですから、だいたい35歳以降の患者さんです。ERPは子宮内膜を新しく再生し、着床環境を改善する治療ですが、さらに上清液中には胚(受精卵)の成長を促進する物質が含まれていることも確認されています」

 原院長がERPの研究を始めたのは、3年前に海外発表された月経血幹細胞移植の文献に出合ったのがきっかけ。約20人のボランティアに参加してもらい1年かけて、月経血の採取量や培養期間などの基礎研究を行った。

 そして、昨年秋から臨床研究を実施したところ、子宮内膜の再生が認められいい感触を得たことから、今回の臨床研究の参加者募集を開始したという。

 今後、半年くらいで30人ほどの患者に実施できれば、ある程度の成績が分かってくるという。ただし、臨床研究でも治療費は実費になる。1回の月経血採取で3回分の上清液が生成でき28万円(税抜き)。子宮注入の費用は1回4万5000円(同)。それに通常の体外受精や受精卵の凍結などの費用が、別途必要になる。

 不妊治療の新たな切り札となるか。臨床結果の動向に注目したい。

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