後悔しない認知症

怒りっぽくなるのは「性格の先鋭化」という老化現象です

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 高齢の親を見て「最近、怒りっぽくなったな」と感じることはないだろうか。地下鉄の駅、スーパーあるいは街頭で激高する高齢者をしばしば見かける。観察してみると、怒りの原因はささいなことがほとんどだ。そうした高齢者はある日突然、怒りっぽくなったわけではない。もともと「怒りっぽい」性格を持っていたのである。若いころは機能していた感情のコントロール力が、前頭葉の萎縮によって弱まったと考えられる。認知症であるかどうかを問わず、老化の症状のひとつは、もともとの性格が「際立つ」ことだ。老年精神医学では性格の「先鋭化」と呼ばれる。

「私のお金がなくなった」などと事実ではないことを口にし始めるのは、もともと疑い深い性格の高齢者が多い。ささいなことを過剰に悲しむのはもともと悲観傾向が強い人、心配性というか、「杞憂」の人だ。

 周りの人がなだめて説明し、親自身が「勘違いだった」と修正することもある。だが、症状が進んでいくと、ある種の妄想傾向が生じることもある。たとえば「お金がなくなった」と感じたとしても「何か買ったのかもしれない」「しまう場所を忘れたかもしれない」「そもそもなかったかもしれない」と想定できればいいのだが、それができなくなる。すぐに「子どもが盗んだ」と決めつけてしまう。さまざまな可能性を考える想定能力は、認知症症状が進むほど低下する。やがて想定などせずに、すぐに感情に訴えた言動をするようになってしまう。

■感情的な対応は火に油を注ぐだけ

「おまえが取ったんだろう」「意地悪ばかりしている」などの妄想、性格の先鋭化による言動は子どもにとってつらいことだ。しかし、ここで子ども自身が「泥棒呼ばわりはやめろ」「ボケてんだから」などと感情的な対応をすれば火に油を注ぐだけだ。

 認知症の進行、発症によって親の言動に事実誤認や性格の先鋭化が見られる場合、子どもは冷静、丁寧な説明を心がけ、少しでも親が受け入れる道を探るべきだ。何度も述べるが、重度の場合はともかく、認知症だからといって、物事の理解力がすべて失われるわけではない。根気強くコミュニケーションを取り、残存している理解力を劣化させないことが大切だ。

 では、どう対処すればいいのか。事実誤認を防ぐためには、子どもがメモを作成して親に渡して、親が定期的に読み返すようにするという方法もある。たとえば「年金はタンスの2段目」「預金通帳は手提げ金庫」「キャッシュカードは机の2番目の引き出し」などと記したノートやメモを渡しておく。また買い物をしたらその明細を家計簿につけておく。

 親自身が自分で記録をつけられるのであれば、認知症になる前に習慣化させておくことだ。入ってきた情報を書き留め、何度も読み返すことは事実誤認や妄想を防ぐためには有効なのだ。子どもは記録した事柄を定期的に親に確認してみるのもいい。

 こうした「入力⇔出力」という行為が、記憶違いを防ぐだけでなく、脳の老化を遅らせる。その結果、性格の先鋭化によるトラブルが生じにくくなるのである。

和田秀樹

和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

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