糖尿病治療の“定番薬” 意外な「効果と副作用」を医師解説

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「安くて効果があり副作用が少ない」と評判の2型糖尿病薬・メトホルミン。半世紀以上前に作られ、海外では第一選択薬の処方率は75%前後、日本でも60%弱といわれる信頼性の高い薬だ。糖尿病に効果があるだけでなく、近年は長期に飲むとがんや若返り、ダイエット、長寿にも関係するとの報告もある。その一方で、意外な副作用もわかってきた。貧血、倦怠感などが主症状の「ビタミンB12欠乏症」になりやすいというのだ。厚生労働省が実施した「2016年国民健康・栄養調査」によると糖尿病が疑われる成人は約1000万人。将来を含め多くの中高年がお世話になるであろうこの薬のメリット、デメリットも知っておいた方がいい。

 糖尿病専門医で「AGE牧田クリニック」(東京・銀座)の牧田善二院長に聞いた。

「メトホルミンの長期投与はビタミンB12欠乏症リスクを増大する」――。こんな論文が英国内科学学会誌に掲載されたのは9年前のこと。オランダのアカデミックメディカルセンター眼科部門の研究者が報告した。

 メトホルミン850ミリグラムを1日3回服用群と、プラセボ服用群に分けて4.3年間治療比較したところ、ビタミンB12値が19%減少したうえ、プラセボ群に比べて「ビタミンB12欠乏症」リスクが7.2%増加したという。その後同様の報告は国内外で行われている。

「メトホルミンは古くからあるビグアナイド系の経口糖尿病治療薬です。日本では1961年から使われています。筋肉細胞でのインスリン抵抗性を改善してブドウ糖の利用を促したり、肝臓で貯蔵しているグリコーゲンを分解してブドウ糖を供給する『糖新生』を抑制したりして血糖値の上昇を抑えます」

 ただし、この薬は開発以降評価が安定していたわけではない。

 フェンホルミンと呼ばれる同じビグアナイド系の別の2型糖尿病治療薬で多数の乳酸アシドーシスと呼ばれる重篤な副作用が多発。70年代後半から使用が敬遠されてきた。

 ところが、94年に米国食品医薬品局(FDA)が安全性を確認。98年に血糖値を正常に近づけることが心血管イベントを抑制できるかを調べた大規模臨床試験でメトホルミンの有効性が再評価されてから状況は一変。インスリン抵抗性を改善するなどの臨床結果が次々に発表され、2005年には国際糖尿病学会のガイドラインでは腎機能障害がなければ2型糖尿病の患者に最初に使うべき治療薬と認定されている。

「今では血糖値が下がるだけでなく、体重維持につながる、長期間使用した患者はその他の薬剤を使った患者よりがん罹患率やがん死亡率が低いことなどが判明。アンチエイジング効果があるという報告もあります」

 昨年の日本糖尿病学会学術集会では神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学の小川渉教授が糖尿病患者にメトホルミンを投与すると80種類以上の腸内細菌の種が変化し、メトホルミン使用者の便を糖尿病マウスに移植すると血糖値が改善したと報告している。

 その薬価は1錠(250ミリグラム)9.90円。対してDPP―4阻害薬(25ミリグラム)の先発薬は70円以上、SGLT2阻害薬の先発薬は100円以上する。

 まさに、「安い」「よく効く」「副作用がない」理想的な薬だ。

■長期使用でビタミンB12欠乏症を招くケースも

 ところが、この薬を長期服用するとビタミンB12欠乏症リスクが高まることを知る人は少ない。

「あまり知られていないのはメカニズムがハッキリしていないからでしょう。ただ、メトホルミンの長期服用者でビタミンB12不足になる人の多くに胃炎を発症しているケースが見られることから、胃からのビタミンB12の吸収が阻害されるからではないか、との意見もあります」

 そもそもビタミンB12欠乏症とはどんな病気なのか?

「ビタミンB12は、造血作用と脳や末梢神経の機能維持、脂質やタンパク質の代謝に関係しています。そのためその不足は、悪性貧血、睡眠障害や知覚障害、食欲不振、倦怠感などの症状を発生させます。ちなみにビタミンB12は動物性タンパク質に多く含まれているため、野菜ばかりを食べるベジタリアンや胃腸の吸収力が低下する高齢者は不足しがちです。そのためこうした人は、メトホルミンの長期服用は気をつける必要があります」

 それにしても、50年以上前に開発され、評価が定まったようにみえる薬に意外な効果と副作用が次々と見つかっていることはある意味恐ろしい。薬は軽々しく使うものではないということか。

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