天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

東大病院のマイトラクリップによる死亡事故で考えられること

順天堂大学医学部付属順天堂医院の天野篤院長(C)日刊ゲンダイ

 僧帽弁閉鎖不全症が進むと、心房細動を発症して慢性心不全に移行したり、ペースメーカーが必要になるような不整脈を起こします。さらに重症化すると発症から10年間で9割が心臓死するか、外科手術を受けるほど悪化してしまいます。

 そんな僧帽弁閉鎖不全症の進行を食い止める新たな治療法として期待されているのがマイトラクリップです。先端にクリップの付いたカテーテルを下肢の静脈から挿入して左右の心房間を通過させてから僧帽弁に到達させ、ずれてうまく閉じなくなっている2枚の弁の両端をクリップで留める処置を行います。これによって血液の逆流が改善されれば、心臓の負担が軽減されて心不全への移行を食い止めることができるのです。

 開胸する必要がないので患者さんの負担が少なく、外科手術のリスクが高い患者さんも受けることができる画期的な治療法です。昨年4月から日本での保険適用が始まり、すでに全国の大病院で実施されています。順天堂医院でもこれまで4例が行われ、すべて問題なく経過は順調です。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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