風邪症状後の異様な疲れに…ウイルス糖尿病はこんなに怖い

半年から数年かけて発病する場合も
半年から数年かけて発病する場合も(C)日刊ゲンダイ

 インフルエンザが流行期のピークを迎え、その対策などをめぐりテレビや雑誌は大騒ぎだ。気になるのは、インフルエンザの増加に隠れて風疹や感染性胃腸炎などのウイルス感染症も増えていること。こうしたウイルス感染症は感染力が強く重症化しやすいだけでなく、一生インスリン注射が手放せなくなる1型糖尿病を発症させる引き金になりかねない。日本糖尿病協会療養指導医で「北品川藤クリニック」の石原藤樹院長に聞いた。

■半年から数年かけて発症する場合も

 糖尿病にはいくつかの種類がある。よく知られているのはインスリンの絶対量が不足してすぐにインスリン療法を開始しなければ命に関わる「1型」と、食べ過ぎや運動不足といった生活習慣が原因の「2型」だ。日本人の糖尿病の90%以上は2型だが、ほかに病気や薬が原因で発症する「二次性糖尿病」がある。

「二次性糖尿病の代表格がウイルス糖尿病です。日本糖尿病学会で認定され、保険病名にもなっています。発症時に発熱やのどの痛みといった風邪症状が見られることが多く、1型糖尿病の20%、その亜流の劇症1型糖尿病の70%はウイルス感染が原因とみられています」

 1型糖尿病とは、ある時期からインスリン産生細胞が崩れていく病気。自己免疫細胞やウイルスが関係してインスリンを分泌するランゲルハンス島β細胞を壊していく。インスリン治療をしなければ、インスリンの絶対量が不足して昏睡状態に陥り、死に至る。

「1型糖尿病には3タイプがあります。『劇症1型糖尿病』は風邪症状から1週間以内でインスリン依存状態になるタイプで、糖尿病ケトアシドーシスの状態になって救急車で運ばれることが多くなります」

「急性発症1型糖尿病」は、1型糖尿病の典型的なタイプ。小児期に発症し、思春期に発症のピークを迎え、糖尿病の症状が出てから数カ月かけてインスリン依存状態になる。

「『緩徐進行1型糖尿病』は2型糖尿病と同じく、ゆっくり進行して最終的に1型になるタイプです。半年から数年かけてインスリン分泌が低下していきます。日本では2型糖尿病と思われている症例の8%がこれに該当するといわれています」

■市販の尿糖試験紙で検査を

 現在、こうした1型糖尿病の発症に関係するウイルスとされるのは、インフルエンザBウイルス、風疹ウイルス、エンテロウイルスのほかに、肝炎や膵炎、髄膜炎や心筋炎などを起こすコクサッキーBウイルス、手足口病やヘルパンギーナを発症させるサイトメガロウイルス、キス病といわれるEBウイルス、ムンプス(おたふく風邪)ウイルス、麻疹ウイルス、レトロウイルスなどだ。

「1型糖尿病といえば子供の病気のイメージを持つ人がいますが、間違いです。例えば劇症1型糖尿病は2004年の日本国内の調査では、平均発症年齢は男性43歳、女性35歳です。20歳未満は8・7%に過ぎません。英国の調査では1型糖尿病の半数は30歳以降に発症することが報告されているのです」

 ちなみに英国のメイ首相は重い風邪をキッカケに56歳で1型糖尿病を発症した。当時、内務大臣としてロンドン五輪の仕事に追われていたメイ首相は最初に「2型糖尿病」と告げられたが、その後すぐに「1型」と診断名を変更されたという。

 昨年夏に大リーグのシンシナティ・レッズからアトランタ・ブレーブスに移籍したアダム・デュバル選手は23歳で敗血性咽頭炎を発症し、その後に1型糖尿病を発症した。

 日本人でも、料理研究家の相田幸二さん(43)は風邪のようなだるさをキッカケに昨年1月、医師から1型糖尿病を告げられている。

「ウイルスによる1型糖尿病が怖いのは、これまでまったく糖尿病とは無縁と思われた健康的な人でも発症することです。大事なことは、風邪症状に襲われた後にこれまでにないだるさに襲われた、のどが渇いて仕方がないという人は、ウイルス糖尿病を疑い血糖値を測ることです」

 とはいえ、糖尿病と診断されて簡易の血糖測定器などを持ち合わせている人と違って、健康な人は血糖を測るのは簡単ではない。ならば、薬局やドラッグストアで販売されている「尿糖試験紙」を使うのも手だ。

「尿糖試験紙は、尿をかけたり、尿の入ったコップに浸すと色が変わり、尿中の糖を調べることができる検査紙です。血糖は160~180㎎/デシリットルを超えると尿中に出てくるため、食後の尿糖を測ることで簡易的に血糖値を推測することができます」

 1型糖尿病は日本人の糖尿病の5%に過ぎず、ウイルス糖尿病はさらに珍しい病気だが、いったん発症するとその影響は大きい。頭の片隅にとめておこう。

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