Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

私自身がんになって<6>菅原文太さんの妻からの手紙

贈られた花とメッセージカード
贈られた花とメッセージカード(C)日刊ゲンダイ

 反戦と無農薬・有機農業の拡大は、菅原文太さん(享年81)の晩年のテーマでした。今は亡き夫の遺志を継いだのが妻の文子さんです。12年前に文太さんが膀胱がんになられ、セカンドオピニオンを求めにおふたりで私の外来に来られて以来、交流が続いています。

 文太さんと同じ膀胱がんを患った私の経過は、5回にわたって紹介した通りです。それで一区切りのつもりでしたが、私の拙文を読まれた文子さんからお便りを頂戴したのでご紹介します。

「~専門医がまさか、とは驚きです。中川先生がこれから治療をされながら、何としても長生きして戴かないと、私ども患者予備軍は心配です。夫が本当にお世話になったことを思うにつけ、中川先生には深い感謝とともに、仁義ある戦いに勝って戴きたいものと、祈念する次第でございます」

 別の病院で膀胱がんと診断された文太さんは、膀胱全摘をためらっていました。全摘すると、尿をためるための人工膀胱を作らなければなりません。それはビニール袋のようなもの。俳優という仕事柄、ためらうのは当然でしょう。

 文太さんが文太さんらしく生きるために。文太さんの生活の質を第一に考えた治療の提案が、放射線治療でした。医師として当然のことをしただけですが、それが縁でおふたりとは折に触れて交流する機会に恵まれたことは私としてもうれしく思っています。文太さんの代表作になぞらえて、「仁義ある戦い」とお褒めの言葉を頂戴したことは、光栄です。

 お花も頂いたのでお礼にお電話すると、こう言われました。

「中川先生が無症状の膀胱がんをご自身でエコーで早期発見されたのは、天の文太の導きかもしれません。文太は生前、『中川先生のおかげで寿命をまっとうできた』とよく話していました。そういえば、(キャスターの)小倉さんも先生も文太も、膀胱がんになる人はみんな、お酒が好きですから、早期発見は何よりですね」

 おっしゃる通りです。国立がん研究センターが約9万6000人を平均18年間追跡した調査があります。飲酒で顔が赤くなる人が、純アルコール量で1週間に151~300グラムを摂取すると、ほとんど飲まない人に比べて膀胱がんのリスクが約2倍に上昇したというのです。赤くならない男性は、アルコール量に関係なくリスクは上昇しませんでした。

 純アルコール量は20グラムで、ビールは中瓶1本、日本酒は1合、ウイスキーはダブル1杯、焼酎は0・6合です。1週間に151~300グラムは、ビールなら毎日中瓶1、2本飲むことになります。欧米では、アルコールと膀胱がんとの関係はないとされますが、日本人はアルコール分解力が弱いため、飲酒で赤ら顔になる人は膀胱がんとの関係がうかがえるのです。

 確かに、飲み過ぎによる脂肪肝がキッカケで、自分でエコー検査をするようになったことが、膀胱がんの早期発見につながりました。ある意味で“脂肪肝さまさま”ですが、ならないに越したことはありません。お酒が好きな読者の方は、節度ある飲酒を心掛けてください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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