"完治”の可能性もある リンパ浮腫はむくむ前の治療が必須

弾性ストッキングでは根本的解決にならない(写真はイメージ)
弾性ストッキングでは根本的解決にならない(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 がんの手術や放射線治療後にリスクがあるのがリンパ浮腫だ。一度発症すると治らないとされるが、それでも「治る」可能性はゼロではない。国立国際医療研究センター病院形成外科診療科長で、国際リンパ浮腫センター・センター長の山本匠医師に話を聞いた。

 リンパの流れが滞り、手足などにむくみが生じるのがリンパ浮腫だ。進行すると皮膚を押してもへこまない非圧痕性浮腫となり、皮膚が分厚く象のようになる象皮症に至る。陰部にリンパ浮腫が起こる場合もある。

「進行するほど治療の選択肢が少なくなる。リンパ浮腫は早期に診断し、適切な治療を行うことが非常に重要です」

 山本医師が行っているのが、がんの治療後早期(3カ月~1年以内)に行うICGリンパ管造影だ。この段階では患者にリンパ浮腫の自覚症状は全くと言っていいほどないが、今後リンパ浮腫を発症するリスクがあるかどうかを判別できるのだ。

 ICGリンパ管造影で、リンパ管が線状に見える「リニアパターン」、縮れた線状が見える「スプラッシュパターン」、星空のような点々が見える「スターダストパターン」に分けられる。

「2009年からの私の研究で、リニアパターンはリンパ浮腫のリスクがゼロ、スプラッシュパターンでは2年以内に3分の1が発症、スターダストパターンは2年以内に97%、5年以内では100%発症することが分かったのです」

 そこで山本医師は、リニアパターンであれば1年ごとの経過観察はするが、リンパ浮腫の治療はしない。一方、将来的に100%発症するスターダストパターンであれば、手術療法のリンパ管細静脈吻合術を速やかに受けることを勧める。問題は3分の1発症のスプラッシュパターンだが、この場合、輸出リンパ管をつなぐ手術を提案する。

「この治療で、現段階で手がけたスプラッシュパターンの約200人のうち、リンパ浮腫の発症例はゼロです。リニアパターンと同様に、その後は何もしなくていい。つまり、リンパ浮腫のリスクがあっても『治る』。一方、スターダストパターンまでいけば、リンパ浮腫の進行は抑えられるものの、弾性ストッキング着用などが必要な場合がある」

■まずはリンパの流れを調べること

 ただし、リンパ浮腫で着用する弾性ストッキングのレベルよりも一段階緩いものでOKなので、手術で進行を抑えられる意味は大きい。

 この弾性ストッキングをはじめ、患部の圧迫療法を中心とした治療を保存療法という。リンパ浮腫に対して保存療法しか行わない医師もいるが、山本医師は「多くの場合、リンパ浮腫の進行を止められない」と言う。

「手術否定の理由に、『全部が成功するわけじゃない』という意見がある。確かにそうなのですが、手術をしなければ、徐々にですが、確実にリンパ浮腫は進行する。それこそ治療が極めて困難な重症リンパ浮腫に至るケースもあるのです」

 前述のリンパ管細静脈吻合術であれば「かすり傷程度の負担」(山本医師)。これがダメならリンパ節の移植手術が検討されるが、全身麻酔が必要な大掛かりな手術になり、がんで全身状態が悪かったり高齢者であれば受けられない。

「とにかく、まずはリンパの流れを調べる検査を。それすら受けていない患者さんが圧倒的に多い。リンパの流れを調べ、手術を含め適切な治療を検討するのが、今できる最善のリンパ浮腫対策です」

 リンパの流れを調べる検査は保険適用外。通常は全額自己負担だが、研究目的で医療機関が費用を負担する場合もある。

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