独白 愉快な“病人”たち

求婚の夜に告知が…はんにゃ川島章良さんが腎臓がんを語る

川島章良さん
川島章良さん(C)日刊ゲンダイ

「腎臓がんの疑いがある」と告げられたのが2014年の10月、32歳の時。とにかく、タイミングが悪すぎましたね。

 半同棲中の彼女の妊娠が分かり、サプライズでプロポーズしようと1泊2日の温泉旅行に行った時だったんですよ。一緒に温泉に入ったふりをして、彼女が女湯に入ったのを見届けた後に1人でこっそりクルマに戻り、彼女へのプレゼントを宿泊する和室に持ってきてテレビの下の小さな襖の中に隠し、彼女がお風呂から戻ってきたタイミングでプレゼントして、驚かせようと計画していました。

 計画通りプレゼントを隠し、シャンパンを冷やして準備万端……という時、携帯電話が鳴りました。病院の先生からでした。結婚を決意したのを機に、彼女と知り合いのお医者さんに勧められ、人生で初めて人間ドックを受けました。で、CTの再検査の結果待ちだったんですけど、「ご両親とマネジャーさんと一緒に来てください」と言われたんです。ただごとじゃないなと思い、「今教えてください」とお願いすると、「腎臓がん」と……。

 もう、目の前真っ暗。電話を切ってすぐに携帯で腎臓がんについて調べたら、死亡率が高いとか“死”を連想させることばかりが書かれていました。「これじゃ、結婚しても幸せにしてあげられないんじゃないか」とか、「子供に遺伝するんじゃないか」とか、「そもそも今日は話さないほうがいいんじゃないか」とか、いろんな葛藤が頭の中を駆け巡りました。彼女がお風呂から出てくるまで30分ぐらいだったと思うんですけど、3時間ぐらいに感じられましたね。

 彼女が部屋に戻ってきた時、たぶん僕の顔つきが尋常じゃなかったんだと思います。戻った途端、「どうしたの?」と聞かれましたから。これは隠しきれないと思い、正直に話しました。悲しむんじゃないかと心配したら、彼女の口からは「大丈夫でしょ。私はこれから赤ちゃんを産むし、一緒に頑張ろうよ」と、ポジティブな言葉ばかりが出てきた。ありがたかったですね。

 でも、その後でプレゼントした、彼女が前から欲しがっていたシャネルのバッグと、「結婚してください」と書いてあるメッセージカードを見たら、「なんで今なの!?」と泣き崩れちゃいました。

 旅行から帰って、すぐに両親、彼女、マネジャーと一緒に改めて病院に行き、「左の腎臓の上のほうに腎細胞がんができている可能性が高い」と告知を受けました。「手術するしかない」と。腎臓って体の奥のほうにあるので、どれぐらいの状態なのか、転移があるのかは、開腹手術をしないと分からないようなんです。開腹してみたら、気泡のようなものが写っていただけだった……という可能性も1%ぐらいはあるそうで、「そうであってほしい」と願いましたね。

 1月1日から10日まで正月休みの予定だったので、その間に手術しようと決めて、年が明けて1月3日に入院し、5日に手術を受けました。4時間半かけて左脇を横に15~20センチ開き、肋骨2本と筋肉も切って、左の腎臓を3分の1ぐらい切り取りました。転移は術後5年の経過を見ないといけないので、今も年1回検査しています。

 それも今年で5年目になり、先生からは「ほぼ心配ない」と言われました。ステージでいうとⅠAだったそうです。

■術後5日で退院、その2日後にはステージに立った

 でも、開腹手術って、これほど大変なんだと思いました。術後、40度ぐらいの高熱が3日間続き、うなされていたそうです。熱がひいて、術後4日ぐらいで、もう歩いてリハビリをするよう言われたんですけど、ちょっと体を動かしただけで痛むんです。最初は10メートルを歩いて往復しただけで気絶しました。彼女が毎日、熱々のゴハンを作ってきてくれたので食欲は落ちなかったけど、体重は4キロ落ちて74キロになりました。

 それでも、10日には歩いて退院し、12日にはステージに立ちました。僕の仕事はお笑いですから、病気のことを知ったら笑ってもらえなくなるんじゃないかと心配で、公表しませんでした。でも、ポッコリ出たお腹もネタにしていたのに傷痕が痛々しくて裸になれず、だんだん隠しきれなくなっていきました。

 大病を経験したとはいえ、僕はラッキーでした。自覚症状がなく、疑って検査を受ける人が少ない病気で、検査をしても見つかりにくいそうですから。僕も自覚症状ゼロだったのに、たまたまお医者さんが「ちょっと怪しい」と見つけてくれたから助かった。お医者さんに「奇跡ですよ」と言われました。

 もし、赤ちゃんができていなかったら、結婚を決意していなかったら、人間ドックを受けることもなかったと思います。そうなると、病気の発見が遅れて今頃……と考えると恐ろしい。赤ちゃんと彼女――今の奥さんに救われた。大切にしなきゃな、と思います。退院後、奥さんも相方も変に気を使わず、それまでと同じように接してくれて、病気を忘れさせてもらえたのもありがたかったですね。

 腎臓がんの原因って、よく分からないそうなんですけど、病気をきっかけに禁煙し、暴飲暴食はしないように気を付けています。それでも体重は、手術前より増えて81キロになり、またお腹が出てきちゃった。周囲に「そのお腹なら大丈夫。安心だわ」と笑ってもらって、まさに“愉快な病人”ですが、もっと気を付けないといけませんね。

 (聞き手=中野裕子)

▽かわしま・あきよし 1982年、埼玉県生まれ、東京・中野区育ち。2004年、明海大学不動産学部を卒業し、NSC東京校に入学。翌05年、同期の金田哲と「はんにゃ」を結成し、早くから注目された。09年に“ズクダンズンブングンゲーム”などのネタが話題になってブレーク。15年2月に結婚し、同年6月には長女が誕生した。

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