市販薬との正しい付き合い方

ヒルドイドは全く同じ成分と濃度の市販薬を安く購入できる

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写真はイメージ(提供写真)

 セルフメディケーションが進まない日本では、病院で薬を処方してもらいたがる人が多くいます。医療用とまったく同じ成分の薬でさえ、市販薬としては売れない=病院でもらおうとする……というから不思議です。

 その顕著な例が「ヘパリン類似物質クリーム」です。総称名の「ヒルドイド」と言えばピンとくる方も多いのではないでしょうか。昨年、本来の治療目的ではなく、美容目的(化粧下地や美容クリームとして使用)で処方してもらう人が多く、処方量が激増している社会問題としてマスコミに取り上げられ、有名になった薬です。

 ヘパリン類似物質クリームは、本来は皮膚乾燥などの治療に用いられる良い薬ですが、「家族が受診したついで」などと称した不適切な処方が問題視されています。薬ですからもちろん副作用のリスクがあり、内出血を助長する恐れもあるのです。

 そんなヘパリン類似物質クリームは、まったく同じ成分で同じ濃度の薬を市販薬として薬局で買うことができます。しかも、病院で処方してもらうよりも安いのです。それなのに、わざわざ病院でもらおうとするのですから不思議です。

 病院の経営という観点からすればありがたいことではありますが、本来の医療のあるべき姿とは違うように感じます。売り手(医療者)の情報提供不足(セールスの下手さ)なのか努力不足なのか、買い手(患者さん)がそれほど情報を欲していないのか。いずれにせよ、患者さんに対して発信する情報が不十分であることは間違いないといえます。

 自分が気に入ったクリームを市販薬として買うことができる。しかも、病院でもらう(買う)よりも安く手に入る。さらに保険診療を圧迫しない……となれば、薬局で買う人も増えるでしょう。これぞまさに利益率の高いセルフメディケーションといえるのではないでしょうか。

神崎浩孝

神崎浩孝

1980年、岡山県生まれ。岡山県立岡山一宮高校、岡山大学薬学部、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒。米ロサンゼルスの「Cedars-Sinai Medical Center」勤務を経て、2013年に岡山大学病院薬剤部に着任。患者の気持ちに寄り添う医療、根拠に基づく医療の推進に臨床と研究の両面からアプローチしている。

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