年中くしゃみなら注意…不調は「繊毛」にあるかもしれない

繊毛の動きが鈍いと…
繊毛の動きが鈍いと…

 本来、左にあるべき心臓が右にある人がいる。「心臓逆位」と呼ばれるこの状態は、細胞から生えている繊毛の異常が関係しているという。それは、心臓以外の多くの臓器の逆位にも関係し、風邪やインフルエンザなどの感染症や花粉症、気管支炎、不妊症、がんなど全身の病気のリスクが高まる原因になるという。

 人の体は目・鼻・耳など表面上は左右対称でありながら、心臓は左寄りで腎臓は左右で高さが違うなど、人間の内臓は左右非対称のものが多い。ところが、まれに心臓を含めたすべての臓器が左右逆になっていたり、部分的に逆になったりするケースがある。それぞれ「内臓逆位」「内臓錯位」と呼ぶ。慶応義塾大学名誉教授で山中湖クリニック理事長の川田志明医師が言う。

「心臓は本来、中央からやや左寄りにありますが、5000人に1人の頻度で右寄りにある場合があります。機能的には問題ありませんが、これを右胸心と言います」

 川田医師は超音波もCT検査もない時代に急性虫垂炎の手術をしたところ、右側にあるはずの虫垂が左にあり、術後のX線で心臓が右にあり驚いた経験があるという。

 そんなバカなと思う人もいるだろうが本当だ。ダイエー創業者の故・中内功氏やお笑い芸人のチャンス大城さんら内臓逆位の有名人も何人かいる。ドラマや小説などでもたびたび取り上げられ、刑事ドラマ「太陽にほえろ!」では三田村邦彦演ずるジプシー刑事が左胸を撃たれながら助かったというシーンを覚えている人もいるだろう。

 その原因は受精数日後の胚の中央部に現れる「ノード」と呼ばれるくぼみにある。そこには各1本の繊毛を持つ細胞が数百集まり、繊毛を高速回転運動させることで、羊水の流れを右から左に誘う。その影響で臓器の位置が決定する。

「ところが、ノード繊毛の動きが悪いと右から左への水流が生まれず、臓器配置が乱れて内臓逆位などが起こるのです」(川田医師)

■鼻炎、気管支炎、不妊、がんなどにも関係

 問題はこの繊毛は、一部を除いてほぼ全身の細胞に生えていて、ひとつの繊毛の動きが悪い人はその他の繊毛の動きも悪く、その機能不全は全身のさまざまな病気を招く可能性があることだ。これを繊毛症という。

「右胸心がある人のなかには慢性副鼻腔炎や気管支拡張症を合併することが多いことが知られています。この3つの病気を合併していることを特徴とする病態をカルタゲナー症候群と言います。副鼻腔や気管支の粘膜に生えている繊毛の数が不足していたり、動きが悪かったりすることで空気中の不純物を排除できないからです」(川田医師)

 人間は1日2万リットルの空気を吸っている。その中には花粉、ウイルス、細菌、チリやホコリなど多くの異物が含まれている。鼻やのどや気管支の粘膜表面にびっしり生えている繊毛は、これをキャッチして外に追い出すことで暖かく湿ったきれいな空気を肺に送り届ける。

 ところが、繊毛の動きが鈍いとそれができず、慢性副鼻腔炎や気管支拡張症を発症してしまう。

 こうした繊毛は鼻やのどや気管支だけでなく、内耳、卵管、精子、脳、腎臓などにも備わり、重要な役割を果たしている。

 愛知教育大学自然科学系理科教育講座の上野裕則准教授が言う。

「繊毛は、動くものと動かないものの2つに大別されます。動く繊毛は例えば精子です。鞭毛と呼ばれる繊毛と同等の構造が卵子に向かうためのスクリューになります。卵管では生理のときに卵子を排出し、卵管壁の繊毛が受精卵を子宮に送り込む手助けをします。動かない繊毛は、脳内でセロトニンなどの神経伝達物質のレセプター、内耳では平衡感覚を保つためのセンサー、嗅細胞ではにおいの受容体として働いています。また、繊毛は細胞周期にも関係し、がん発症に関わっていることもわかっています」

 つまり繊毛異常は女性の場合は生理不順や子宮外妊娠、男性は男性不妊、他に前述の慢性副鼻腔炎や気管支拡張症以外にうつ病やめまい、がんの発症に関係する。

 繊毛症は生まれながらに繊毛異常のある原発性繊毛運動不全症以外に喫煙や慢性気管支炎やインフルエンザなどのウイルス感染症をきっかけに発症することもあるといわれている。

 あまり知られていないため50代まで気づかない人もいる。

 気になる人は病院で粘液繊毛機能を調べるサッカリンによる検査、電子顕微鏡検査、遺伝子検査などを受けてみるといいかもしれない。

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