人生100年時代を支える注目医療

着ている服一着で心電や体温を計測できるスマートアパレル

代表取締役CEOの網盛一郎氏
代表取締役CEOの網盛一郎氏(C)日刊ゲンダイ

 あらゆるモノがインターネットでつながる「IoT」の中でも、体に身に着けて使う端末を「ウエアラブルデバイス」という。腕時計型の「スマートウオッチ」やサングラス型の「スマートグラス」などが普及しつつある。近年、急速に実用化の期待が高まっているのが、着る服にウエアラブルデバイスの機能をもたせた「スマートアパレル」だ。

 例えば、心拍や呼吸、体温などのバイタルデータや加速度(移動距離や速度)、姿勢や動きなどのデータを着ている服から取得し、スマホやパソコンなどに送信して生体情報をリアルタイムで測定するというものだ。国内外のいくつもの企業が開発を進めている。

 最先端の技術を用いて「e―skin(イースキン)」というスマートアパレルを開発したのは「株式会社Xenoma」(東京都大田区)。東京大学大学院工学系研究科・染谷研究室の確立した布上に電子回路を形成する技術(電子回路布)を実用化するために、2015年11月に設立された東大発ベンチャーだ。

 イースキンは、どんな仕組みで情報を測定するのか。代表取締役CEOの網盛一郎氏(写真)が言う。

「伸縮性に優れた電子回路布を用いたイースキンは、従来の服型のウエアラブルデバイスと異なり、普通の服として着られる実用性の高さが特徴です。最初に開発したシャツは、14本の伸びるセンサーが装着してあり、人の動きや呼吸が取得できます。心電を計測するウエアなどは他社からも販売されていますが、複数のセンサーを着心地の良い一着の服に搭載する技術は、現時点では他にありません」

 マイコン、充電池、通信機が内蔵されたハブが胸上部に付いており、それを外せば普通に洗濯もできる。

 イースキンのシャツは、すでに17年から国内外の法人向けに販売が開始されている。いまではTシャツ、スパッツ、ズボンなどいくつも種類があり、購入側の用途に合わせた受注も行っている。連動させるソフトも共同で開発する場合もあるという。

 用途はVRなどのゲームコントローラーとしての使用や、スポーツのフォームのモニタリング解析などに活用できる。しかし、他のウエアラブルデバイスと比べて装着感が少なく、長時間着用できることから医療・介護分野での活用の期待度は大きい。

「心電、体表面温度、上半身の動きのデータが取れるシャツは、いまドイツの大学病院で認知症患者さんを対象とした臨床研究が行われています。また、同じドイツの研究機関では、イースキンを用いてリハビリによる体の可動域を分析するソフトを開発中です」

■病気を発症する前の状態を見つけるのが目標

 日本の寝具会社と共同で開発を進めているのは、足首に巻くベルトタイプを活用したもの。室温と足首温度、足の動きを検知して、熟睡を導く環境のコントロールを行うというシステムだ。

 他にも、LEDライトを当てた皮下の血液の色から血糖値を測定する技術、血流の速さから血圧を測定する技術などを他の研究機関が開発している。今後、これらの技術とイースキンをコラボさせていきたいという。

「将来的には、企業や研究機関などと共有したビッグデータを活用して、病気の発症前の状態を見つけられるようなスマートアパレルを目指しています」

 一般への実用化は20年をメインターゲットにしているが、今年の夏以降には何かしら1つ目の商品を販売する予定。個人向けのイースキンは、一着1万~10万円くらいの価格帯を想定しているという。

関連記事