命に関わる病気リスク上昇 男性更年期障害はこんなに怖い

テストステロンのピークは20代
テストステロンのピークは20代(C)日刊ゲンダイ

 男性の更年期障害「LOH症候群」について、聞いたことがある人はいても、「俺がなるはずがない」と考えている人は多いだろう。独協医科大学埼玉医療センター泌尿器科准教授・井手久満医師に話を聞いた。

 主に加齢によって、男性ホルモンのテストステロンが減少し、さまざまな不調が生じるのがLOH症候群だ。その不調は多岐にわたる。

「不安、イライラ、うつ、不眠、集中力や記憶力の低下、筋力低下や筋肉痛、疲労感、火照りや発汗、頭痛やめまい、頻尿、性機能低下、性欲の減少、朝立ちの消失などです」(井手医師=以下同)

 中でも顕著なのは最後の3つの性的症状だが、これらも含めて、どの症状もLOH症候群特有のものではない。

 そのため、本人が気づかない。不調を訴えて受診しても、LOH症候群の診断経験が少ない医師では見落とされることが珍しくない。

 商社勤務の60代男性は、2年前から夜中に3、4回トイレに起きるようになり、泌尿器科クリニックを転々としていた。薬では症状は改善せず、夜間頻尿を主訴に井手医師の外来を受診した。

「前立腺肥大などは見つからず、男性の年齢からLOH症候群を念頭に話を聞くと、女性に興味がなくなり、朝立ちもなくなっていた。また、この男性は、疲労の蓄積で以前通っていたゴルフや水泳にも行けなくなったとのことでした」

 LOH症候群を調べる方法として国際的に使われているのが、17項目の質問からなるAMSスコア。各項目に対し「ない=1点」「軽い=2点」などと点をつけていく。27点以上がLOH症候群だ。この男性は「重症」の範囲に入る55点だった。

 LOH症候群の治療は、テストステロン補充療法、漢方薬、バイアグラなどのPDE5阻害薬、運動療法、食事療法、ストレスマネジメントなど。

「男性にテストステロン補充療法を行ったところ、約半年後にはAMSスコアが26点以下、つまりLOH症候群が『ない』状態に至りました」

 LOH症候群が近年、注目を集めているのが、メタボリック症候群、うつ、認知機能低下、骨粗しょう症、心血管疾患などのリスクを上げることが明らかになっているからだ。

「前立腺がんの患者さんを手術すると、テストステロンが低い人の方が、病理組織学的悪性度が高い。がんが精嚢まで広がっていたり、がんを取りきれない断端陽性があったり、PSA再発(術後、再び前立腺がんが検知される)が見られます」

■日常生活の再建で男性ホルモン値改善

 日々のつらさを解消するだけでなく、命に関わる重大病対策のためにも、LOH症候群の知識を深めるべきだ。テストステロン減少の程度は個人差が大きいが、40歳以降で不調があるなら、LOH症候群も疑い、まずは医療機関を受診する。「日本Men’s Health医学会」のホームページなどで専門外来を探せる。

 また、テストステロン減少を抑制する生活への改善も不可欠だ。

「特にいいのが運動で、ウオーキングやジョギングなど、適切な運動は、テストステロンの数値を高めることが研究で証明されています。また、睡眠不足はテストステロンを減少させるので、十分に睡眠を取ってください」

 メタボ改善や体内の酸化ストレスを減少させる成分を含む機能性食品の開発も進められている。それらの利用で、結果的にテストステロン減少を抑制できる可能性がある。

 さらに、バイアグラなどのPDE5阻害薬の服用で、半年後にテストステロンの量が上昇したという研究結果もある。

 テストステロンのピークは20代。まだ若いと思っていても、気持ちの上だけかもしれない。

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