リンパ浮腫は保存療法では止まらない…今できる最善のこと

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 ドラマ「愛という名のもとに」にも出演していた女優の洞口依子さん(53)が、日刊ゲンダイ1月10日号の連載企画「愉快な病人たち」で、子宮頸がんの手術後10年目にリンパ浮腫を発症したことを告白。「リンパ浮腫を取り巻く環境は、まだまだ厳しいようです」と語った。

 リンパ浮腫には明らかな原因がなく発症する「原発性リンパ浮腫」と、がん治療の副作用で発症する「二次性リンパ浮腫」とがあり、国内では大半が二次性リンパ腫だ。がんの手術でリンパ組織を摘出する、あるいは放射線をリンパ組織にも照射することで、リンパ管やリンパ節に障害が生じ、本来は静脈から心臓に戻るリンパ液の流れがシャットアウトされる。そのためリンパ液が過剰に貯留し、皮下に滲み出て、むくみなどの症状が出るのがリンパ浮腫だ。

「リンパ浮腫を取り巻く環境が厳しいというのは、確かにそうです。リンパ浮腫に対して十分な対策が取れているとは言えません」

 こう話すのは、国立国際医療研究センター病院形成外科診療科長の山本匠医師。国際リンパ浮腫センターセンター長でもある山本医師は、手術後3カ月以降からリンパ浮腫をチェックする検査を行い、そのリスクがある患者にはむくみが現れる前から治療を行っている。「発症したら一生付き合っていかなければならない」と言われるリンパ浮腫だが、山本医師の早期介入によって、何の治療もしなくても悪化せず、画像検査でも異常なしの、完治といってもいい状態の患者が、数は多くないものの、いる。

「ところが現状は、むくみが現れてから治療開始になるケースがほとんど。リンパ浮腫という病名から、むくみ(浮腫)の病気と考えられがちですが、そうではなく、リンパの流れが悪いのが問題なのです。私は『リンパ不全』と呼ぶべきではないかとも思っています。このリンパの流れの悪さは、術後3カ月から半年くらいから2年以内に見られる。その段階、つまり、むくみなどの自覚症状が出る前から治療を開始するのが最善の策なのです」(山本医師)

■症状の進行を遅らせられても止めることはできない

 リンパ浮腫の治療には、弾性包帯や弾性着衣で患部を圧迫する圧迫療法をはじめとする「保存療法」、リンパ管細静脈吻合術や血管柄(へい)付きリンパ節移植術などの「手術療法」がある。山本医師が言う"治療"とは、後者の手術療法だ。

「保存療法では、症状の進行を遅らせることはできても、止めることはできません。手術をしても必ず進行を止められるとは限らないため、手術には賛否両論があります。しかし、手術をしなければ確実に進行する。最初に検討されるリンパ管細静脈吻合術は非常に負担の少ない手術ですが、進行すれば、それが不可能になることも。負担の大きい血管柄(へい)付きリンパ節移植術や、あるいはそれすらもできないようになります」

 すでにむくみが出ている患者の場合、今できることは、まずはリンパの流れの検査だ。この検査は保険適用外ということもあり、行われていないケースが圧倒的に多い。しかし、リンパ浮腫がリンパの流れが悪くなる病気であることを考えると、適切な治療を考える上で必須。残念ながら自費診療だが(一部、研究目的で医療機関が費用を負担するところもある)、“もう少し前ならあの治療ができたのに……”と後で後悔しないためにも、受けた方がいい。

「脚のむくみでは、片方に症状が出て、もう片方はまだ、という場合があります。それに関しても、症状がまだの方のリンパの流れの検査をすべきです」(山本医師)

 これからがんの治療を受ける患者の場合は、前述の通り、術後3カ月~半年くらいに、今後むくみが出る可能性があるか調べる検査を。主な検査にはリンパシンチグラフィ(SPECT/CT)とICGリンパ管造影があるが、最も検査感度が高く早期診断に向いているのがICGリンパ管造影だ。"リンパ浮腫の治療は自覚症状が出る前から"を念頭に置くべきだ。

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