Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

河村隆一さんは手術で復帰 肺腺がんの切除エリアと呼吸機能

「LUNA SEA」のボーカルの河村隆一さん
「LUNA SEA」のボーカルの河村隆一さん/(C)日刊ゲンダイ

 順調に回復しているようです。1月11日に肺腺がんで手術を受けたLUNA SEAのボーカル河村隆一さん(48)が先月19日にステージ復帰。その日のブログに「前と変わらず唄いきれたと思います」と投稿。その後もジムに通って心肺機能の回復に努めていることが見て取れます。

 手術後のブログには「オペは部分切除。肺活量も今までとほぼ変わらないだろう」とつづっていて、呼吸機能への影響は最小限で済むことにホッとされた様子。それでもボーカリストという仕事柄、どこまで回復するか不安はあったはず。無事に呼吸機能の回復は何よりでしょう。

 肺腺がんは、肺の奥にできやすく、肺がん全体の6割を占めます。たばこと関係がなく、非喫煙者や女性に多いのが特徴です。歌舞伎役者の中村獅童さん(46)も2年前、X線検査で早期の肺腺がんが見つかりましたが、手術で治っています。ステージ1なら9割が治りますから、河村さんや中村さんのように早期の現場復帰を望むなら、検診が何より重要です。

 そこで気になるのは、手術と呼吸機能の関係でしょう。肺は右が3つ、左が2つの「肺葉」に分けられ、さらに右は10、左は8の「区域」に分けられます。

 腫瘍の大きさによっては肺の全摘ではなく、より小さな切除で済む肺葉切除が適応になることがあります。全摘や肺葉切除だと、病変はしっかり切除できても、呼吸機能の低下が問題でした。

 その問題点をクリアする切除法が、区域の根本まで切除する区域切除です。

 早期の肺腺がんは腫瘍が小さく、2~3センチ以下なら区域切除の適応になる可能性があります。

 より切除エリアが小さなものが楔状切除。肺の端のみを切除して根本は残す方法です。

 切除するエリアが小さいといっても、手術が簡単というわけではなく、その区域につながる血管のみを選んで切除する必要があり、一つのミスで大きく肺機能を損なう恐れも。熟練した技術が欠かせません。手術エリアのチェックには、CTやPET/CTも併せて厳密に行います。

 手術後の呼吸機能は、手術前に比べて肺葉切除が大体80%、区域切除が大体90%、楔状切除が大体95%です。それほど差がないように思われますが、肺機能が50%になるとほぼ寝たきりに近いといわれますから、8割と9割の違いは大きい。坂道や階段、重いカバンを持って歩くなど負荷が強い時に、呼吸機能のちょっとした差が出てきます。

 そういう呼吸機能の低下をカバーするのが、医師や運動療法士などの指導に基づくリハビリやトレーニングです。河村さんもブログにトレーニングを重ねていることをつづっています。

 手術による呼吸機能の低下が気になるなら、放射線がベター。治療成績は手術と同等です。早期の肺腺がんなら、東大病院で治療する場合、1回90秒、4回の通院で済みます。都市部には、仕事帰りに受診できる放射線科もあって、仕事や生活と治療の両立も比較的簡単でしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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